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社説・コラム

天風録 『ゴジラが目覚めぬよう』

 〈海底にゴジラ再び〉と銘打ったのは海上保安庁の発表文である。場所は日本列島のはるか南。太平洋の海底地形に、うつぶせに眠る巨大怪獣を重ねて名前を付けた。山脈のような隆起を腕や脚、尾などに見立てて日本政府が提案し、国際会議で承認された▲マントルが断層のずれで地殻から露出したメガムリオンと呼ばれる一帯で東京都の3倍の面積に広がる。その巨大さから、「ゴジラメガムリオン」と研究者の間で呼ばれるようになった。来年、古希を迎えるゴジラが世界に定着した表れでもあろう▲映画の1作目は1954年に封切られた。水爆実験によって安住の海を奪われた怪獣の物語には、核の恐怖が底流にあった。同じ年、ビキニ環礁で「死の灰」を浴びた第五福竜丸の受難が重なる▲初代ゴジラは小笠原諸島に姿を現した後、東京に向かった。小笠原諸島の南に位置するゴジラメガムリオンにすんでいたのかもしれない、と想像も膨らむ▲新名称は今後、地図や海図などで使われる。政府に被爆国として核兵器廃絶を訴える意図があったとは思えぬが、目にした人がゴジラの叫びを受け止めれてくれるといい。海底でこのまま眠り続けてもらうためにも。

(2023年2月17日朝刊掲載)

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