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社説・コラム

『この人』 広島平和文化センターの第11代理事長 香川剛広(かがわたけひろ)さん

 外務省に40年余り勤め、紛争や戦争が続く中東に長く赴任した。テロが絶えず、銃声が響く日々に「平和の大切さが身に染みた。その実現の努力がいかに重要か分かった」。広島市の平和行政を支える公益財団法人、広島平和文化センターの理事長に1日就任。「広島は日本の平和の原点」と背筋を伸ばす。

 平和や復興に携わりたいと、外交官を志した。その思いを強める転機となったのが親友の死だ。早稲田大で共に学び、入省同期だった奥克彦さんが2003年、イラクで凶弾に倒れた。翌年、自身も荒廃した現地に赴任。戦後復興の支援に当たり、「彼と共に活動している気持ちだった」と振り返る。初めて広島市を訪れたのも同じ頃。一時帰国中に原爆資料館(中区)を見学し、人類の惨禍を胸に刻んだ。

 広島とのつながりを、14年から5年間務めたエジプト大使時代に強めた。「次代を担う若者の意識が変わらないと本当の平和は実現できない」との信念から、広島大の協力を得て現地の大学に平和学を導入した。核兵器開発疑惑が浮上したイランとの対話や、国連の制裁措置の発動にも関わった。

 ロシアのウクライナ侵攻から1年。核兵器使用のリスクが高まる中、5月に被爆地である先進7カ国首脳会議(G7サミット)の意義をかみしめる。「核兵器を巡る情勢は厳しいが、廃絶を諦めてはいけない。多くの人に広島の歴史を伝え、市民レベルの連帯を強化したい」

 東京都出身。中区で妻と暮らす。中国地方で生活するのは初めてで、余暇に旅行や食を満喫するつもりだ。(余村泰樹)

(2023年2月17日朝刊掲載)

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