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被爆者との対話 AIで次世代へ 収録映像で質問に対応 NHK広島放送局開発 伝承のツールに

 人工知能(AI)を活用し、画面上の被爆者と被爆体験や戦後の暮らしについて疑似対話ができるようにした「被爆証言応答装置」をNHK広島放送局(広島市中区)が開発した。質問されると、あらかじめ収録した多様なパターンのインタビュー映像からAIが選んで再生する仕組み。最新技術を活用し、被爆者なき将来を見据えた体験証言の「リアルさ」を模索する。

 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(同)で1月下旬、タレント・作家の加藤シゲアキさんをゲストに報道機関向け発表会があった。

 縦約2メートル、幅約1メートルの画面に梶本淑子さん(92)=西区=の等身大の姿が映し出される。マイクに向かって「亡くなった家族や友人を思い出すことはありますか」と質問すると「しょっちゅうあります。困った時とか…」と答えた。

 装置は、梶本さんが10時間以上をかけて約900の質問に答えたインタビュー映像を内蔵する。14歳の時に爆心地から2・3キロで被爆して大けがを負いながら、同級生らと生き抜いた体験。戦後の生活や最近の楽しみ…。107の設問と答えを用意している。それ以外の質問も可能だが「分からない」などと答えることがあるという。

 AIを活用した装置のアイデアは、若手局員から出た。2021年秋に開発を開始。専門家の助言を受けながら今年1月に完成した。生田聖子チーフ・プロデューサー(46)は「対話の疑似体験を通して、被爆者の思いや言葉は利用者の心に響くのではないか」と狙いを語る。

 梶本さんは「最初は抵抗感もあったが、被爆体験を伝えるツールの一つができてうれしい」と話す。同時に「利用者に使い方を委ね過ぎると、いたずら目的や不適切な質問がされ、それに私が答えたことになってしまわないか」。自身の思いとは違うAIの回答が「本人の肉声」として独り歩きすることも懸念する。

 NHKは、悪用防止も含めて活用法を探るため、高校生ら50人以上に体験してもらった。梶本さんの体験を語り継ぐ市の被爆体験伝承者が同席し、AIの回答に補足で解説した。NHKによると「実際に対話しているようで感情移入しやすかった」との意見があった。ただ、AIが完全に本人に成り代わることはできない。回答は比較的簡潔なこともあり「体験をじっくり聞くことができるための工夫も必要」といった注文もあった。

 NHKは開発プロセスを追った番組を3月18日午後9時からBS1で放送予定。装置の設置場所や活用法、梶本さん以外の被爆者にも広げていくかどうかは今後検討するという。(新山京子)

(2023年2月20日朝刊掲載)

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