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社説・コラム

天風録 『強制収容所の記憶』

 古書市で掘り出し物を手に入れた。映画監督の故新藤兼人さんが1977年に岩波新書で出した「祭りの声」。少年時代に古里広島で別れたきりの米国移民の姉と、53年ぶりに現地で再会した感動を軸にしたドキュメントだ▲姉から戦後、何百通となく届いた自分語りの手紙からの引用も胸を打つ。間違いだらけの漢字、耳で覚えた英語に広島弁―。日米開戦後に送られた強制収容所の記憶はとりわけ生々しい▲西海岸を追われた姉の家族6人が「着いた所は、サバク」。砂嵐が吹くアリゾナの地では食べ物は用意されて「たべること、だけが、仕ゴト」だったらしい。やがて日系人を悩ませ、苦しめたのが米国への「忠誠」だ▲サインして戦場に赴くかどうか。判断を巡る骨肉の争いも絶えなかった。新藤監督のおいは拒み、別の収容所へ送られる。悲劇を生んだ強制収容をもたらした大統領令が出たのが81年前のきょう。米国で2月19日は「追憶の日」として語り継がれる▲重い教訓が、現代の世界でどこまで生かされているか。ここにきてウクライナの子どもたちを連れ去り、再教育を強いるロシアの収容施設の存在も伝えられる。日系人の苦難は決して昔話ではない。

(2023年2月19日朝刊掲載)

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