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社説・コラム

天風録 『松本零士作品にワープ』

 85年前の1月25日、後に子どもたちを夢中にさせる漫画家2人が生まれた。ともに手塚治虫さんのアシスタントを務めたこともある。「仮面ライダー」の石ノ森章太郎さんは25年前に亡くなったが、もう一人の松本零士さんもまた逝ってしまった▲SF漫画で知られた点も同じ。石ノ森さんのヒーローは悪の組織から社会を守る正義の味方だろう。片や松本さんの「宇宙戦艦ヤマト」は地球征服をたくらむ侵略者と戦う。物語は壮大なスケールとロマンにあふれる▲旧陸軍パイロットだった父を持つ松本さん。幼少期には疎開先の愛媛県でB29など米軍機を見上げたという。数多く手がけた戦争漫画やSF作品の描写が詳細なのも納得がいく。叙情性はデビュー後しばらく描いた少女漫画で磨いたのだろう▲劇中の「ワープ」という語が子どもの間で流行した。宇宙空間のひずみを利用したヤマトの瞬間移動である。時空のかなたへ思いをはせるという意味も広がった。「銀河鉄道999」で物語の中へ旅した人も多いはず▲遠く時の輪の接する処(ところ)で、また巡り会える―。よく口にした言葉は少し謎めいて松本さんらしい。これからもその作品世界へ、心のワープを楽しもう。

(2023年2月21日朝刊掲載)

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