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連載・特集

緑地帯 紙谷加寿子 野薔薇のごとく⑥

 私が主宰する広島市のオペラ団体「野薔薇座」は、必ず母国語である日本語で上演している。なぜなら観衆は言葉がわかってはじめて感動できると考えるからだ。

 オペラ「夕鶴」の作曲家、團伊玖磨先生がおっしゃっていらした。米国公演の時、日本語で上演した。しかし、観客の反応はいまいちだった。その後、英語に訳して上演。観客は涙したそうだ。鶴が最後に飛んで行ってしまう時に歌う「さようならのアリア」では、さようならでなく「グッバイ・ダーリン」という具合だ。

 イタリアに留学して悟ったこと。それが母国語でオペラを上演しなければ、いつまでたっても「分からない」「難しい」と言われ続けるということだ。

 私がイタリアでオペラを見て感動したのは、留学のためにイタリア語を懸命に勉強したため、歌手が歌っている内容が分かるようになったからだった。オペラを大衆化するためには、母国語で上演しなければならないと気づいた。

 観客は日常を離れた夢の世界を、美しい舞台を見に来るのだ。オペラは歌劇。歌と劇に踊りも加わる総合芸術だ。楽しくないはずがない。

 今まで野薔薇座は数多くのオペラやミュージカルを上演してきた。大好きな映画「サウンド・オブ・ミュージック」や「マイ・フェア・レディ」のミュージカルはぜひともやりたかった舞台だ。特に「メリー・ポピンズ」は一番大好きな映画。18年前、日本語の脚本で初演を実現した。今年3月にも、広島市で久しぶりに上演する。 (声楽家、野薔薇座代表=広島市)

(2023年2月21日朝刊掲載)

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