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連載・特集

緑地帯 紙谷加寿子 野薔薇のごとく⑦

 2018年、私が主宰する広島市のオペラ団体「野薔薇座」は設立30周年を迎え、記念公演として「ザ・サウンド・オブ・ミュージック」を上演した。その前年に、野薔薇座初の海外公演も果たした。まだ新型コロナウイルスの世界的な流行も、戦争もなかったウクライナでだ。

 私の妹の夫は、ウクライナの財務大臣のアドバイザーを務めていた。その関係で、ウクライナで17年に開催された「日本年」の関連行事に招待された。

 私と座員の計3人が渡航。首都キーウと中部のヴィンニツァ、東部のドニプロで3公演を行った。

 ステージは日本の童謡を織り込んだ新作歌劇「天人の羽衣」と、コンサートの2部構成。ウクライナ語のナレーションは、事前のオーディションで選んだウクライナ人による録音を使用した。

 「天人の羽衣」は私が天女、座員の天畠裕美さんが漁師の聡介、坂井けいさんが龍の舞を、そしてキーウ在住の俳優中村仁さんが殿様の役で出演。どの公演も満席で、スタンディングオベーションが起きた。コンサートではウクライナで大人気の歌謡曲「恋のバカンス」を踊り付きで披露し、大声援を浴びた。本番後はサインを求めてきて、大勢の人々が声をかけてくれた。あの優しいウクライナの人たちにまた会いたい!

 美しいウクライナが今、戦争で破壊されている。私たちが公演で訪れたキーウとヴィンニツァ、ドニプロはいずれもミサイル攻撃を受け、たくさんの人々が死傷したという。6年前に、そんなことが想像できただろうか。 (声楽家、野薔薇座代表=広島市)

(2023年2月22日朝刊掲載)

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