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核威嚇 G7の結束図る 首相、サミットへ正念場 廃絶への道筋示せるか

 ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で1年。ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が核兵器で脅しを続けていることに対し、岸田文雄首相は先進7カ国首脳会議(G7サミット)の開催地に被爆地広島を選ぶなど、G7の結束を強める。一方で核兵器削減の手だては示せず、ライフワークの「核なき世界」の実現は見通せていない。被爆者から不満も漏れる。

「現実的な脅威」

 「世界は核兵器の現実的な脅威に直面している」。20日、官邸近くのオフィスビル。シンクタンク日本国際問題研究所(東京)の会合に駆け付けた首相は、ロシアの核使用に危機感をにじませ、G7で連携して対ロ制裁を続けると訴えた。

 プーチン氏が昨年2月、「ロシアは世界で最も強力な核保有国の一つだ」と発言して以来、首相は核使用「ノー」のメッセージを出し続けてきた。「核の威嚇も、ましてや使用もあってはならない」と繰り返す。この頃、故安倍晋三元首相が米国の核兵器を日本国内で共同運用する「核共有」政策を唱えたが、岸田首相は「非核三原則を堅持する立場から認められない」と即座に退けた。

 被爆地選出の信念がのぞいたのはG7サミット開催都市の選定だった。都内に迎えたバイデン米大統領との会談で広島開催を伝達。肩を並べた記者会見では「広島ほど平和へのコミットメント(関与)を示すのにふさわしい場所はない」と力を込めた。

 歴代政権と比べても核兵器廃絶を国際社会に発信する姿勢は際立つ。核拡散防止条約(NPT)再検討会議で演説した昨年8月には「核兵器のない世界に向け現実的な歩みを進める」と力説。翌月の国連総会でも核兵器削減にあたって「唯一の戦争被爆国としての歴史的使命感」を重んじるとした。

核禁止条約に背

 一方で、核兵器禁止条約には背を向け続ける。「核保有国が参加していない」と署名・批准に動く気配はない。先の二つの国際会議の演説でも一切触れず、被爆者から「核兵器をなくす覚悟が見えない」との批判が強まった。

 ことし1月の日米首脳会談で首相は「核なき世界」という文言を封印。政府高官によると、直前の英国、フランスとの首脳会談も含め、核廃絶に向けた具体的な議論はなかったという。昨年末の国家安全保障戦略の改定を踏まえた軍事連携強化の姿が際立った。

 ロシアは先ごろ、米ロ間で唯一の核軍縮合意、新戦略兵器削減条約(新START)履行停止を表明するなど核を巡る情勢は険しさを増す。核兵器を持つ米英仏の首脳が被爆地に集う広島サミットで、核なき世界への道筋を示せるかどうか―。首相の正念場となる。 (樋口浩二、中川雅晴)

(2023年2月24日朝刊掲載)

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