×

社説・コラム

天風録 『東部戦線異状あり』

 映画化されたのは3度目になる。第1次世界大戦を舞台にしたドイツ人作家レマルクの小説「西部戦線異状なし」。動画配信版として制作され、今年の米アカデミー賞候補に挙がる▲「祖国のため」と鼓舞された若者は勇み、戦線に赴く。だが愛国心の高揚感は死の恐怖を前にあっけなく崩れ去る。主人公パウルも仲間と同様、結局は虫けらのように死んでいく。ベストセラーが問いかける、不条理な戦争が今もなお続くのはなぜ▲リメークは偶然とは思えない。ロシアのウクライナ侵攻から、きょうで1年。戦闘の長期化が懸念され、市民を含めた犠牲は広がるばかり▲小説や映画は救いがある。命を奪った敵兵が肌身離さず持っていた家族の写真を見つけ、パウルは悔やむ。「初めて僕は分かった。君だってやっぱり僕と同じような人間であることが」。遺体に語りかける言葉は現代の私たちに突き付けられている▲人命は重い。戦火に苦しむウクライナ人だけではなくロシアの兵士とて同じはずだ。侵攻を正当化し、戦いをやめようとしないプーチン大統領に翻意を求めたい。5月には先進国の首脳たちが広島に集う。せめて、それまでに解決の糸口が見いだせないか。

(2023年2月24日朝刊掲載)

年別アーカイブ