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社説・コラム

社説 ロシアの暴挙と世界 核のどう喝に強く憤る

 ロシアのウクライナ侵攻から24日で1年になる。東南部を中心に激しい戦闘が続き、首都キーウ(キエフ)などへのミサイル攻撃も絶えない。大勢の命や生活が奪われ、世界中が心を痛めている。

 ロシアのプーチン大統領はおとといの年次報告演説で侵略行為は「祖国防衛のため」とし、改めて数々の戦争犯罪を正当化した。国際法を無視した侵略行為はとても受け入れられない。

 何より許せないのは核兵器使用の威嚇を続けていることだ。演説では米ロ間の核軍縮合意、新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を一方的に表明した。新たな「核のどう喝」であり、言語道断だ。被爆地広島として強い憤りを抱く。

 新STARTは、米ロの核兵器の配備数を制限する条約で、1991年に米ソの首脳で第1次の条約に調印して以降、更新を重ねてきた。87年に両国で結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約と並び、冷戦終結の象徴と言える。4年前にはINF廃棄条約が失効し、両国にとって唯一の「縛り」となっていた。

 プーチン氏は「脱退ではない」としたが、履行停止で段階的に進めてきた核軍縮は滞る。あろうことか、核実験の準備を整えるよう国防省などに指示する考えも示した。核を巡り緊張感に包まれた冷戦時代に逆戻りするような行為は許されない。

 とはいえ、現時点では米国をけん制するのが狙いだろう。米側が「ロシアの動きを注視する」としたように、冷静に対応を見極める必要があろう。

 プーチン氏に焦りがあるのは明らかだ。短期決着を見越した軍事侵攻はウクライナの徹底抗戦で長期化。無理やり動員されたロシア兵の大量戦死が伝えられる。

 この間、病院や学校、ショッピングセンターなどへの無差別ともいえる攻撃を繰り返してきた。多数の民間人虐殺も明るみに出た。砲弾にさらされた原発の潜在的なリスクが浮き彫りになった。

 国連人権高等弁務官事務所は民間人の犠牲者が8千人を超えたと発表した。十分把握できていない激戦地を含めれば実際ははるかに多いはずだ。市民の命が無残に奪われるたび、胸が詰まる。インフラへの攻撃で電力が不足し、極寒に耐え忍ぶ暮らしを想像するとやりきれない。

 泥沼化する戦争の出口戦略を見いだせないのはウクライナも同じだ。20日にはバイデン米大統領がキーウを電撃訪問。ゼレンスキー大統領に直接、追加支援を伝えた。北大西洋条約機構(NATO)や、日本が議長国を務める先進7カ国(G7)も結束をアピールした。

 結集すべきは停戦の糸口を見いだす知恵だろう。欧米各国は重戦車の供与などを決めたが、軍事支援をエスカレートさせるのは危険だ。目的はウクライナの主権を守り、和平を実現することだと肝に銘じるべきで、ロシアを追い詰めれば核使用のリスクは高まる。その先には破滅しかない。

 国際社会の疲弊も看過できない。世界経済や途上国の食糧事情への悪影響も極めて深刻だ。戦争が長引けば長引くほど、苦しみは世界に広がる。これ以上犠牲者を増やすのは誰も望んでいない。プーチン氏は一刻も早く停戦に踏み出すべきだ。

(2023年2月23日朝刊掲載)

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