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連載・特集

緑地帯 紙谷加寿子 野薔薇のごとく⑧

 18年前、「メリーポピンズ」のミュージカルを野薔薇座で上演しようと、総楽譜を探したがどこにもない。それで、映画を見ながら音を聞き取り、楽譜を書き起こすことに。1カ月後、楽譜が出来上がった。なるべく映画に忠実に日本語で台本も書いた。上演すると、たくさんの観客に「感動した」と言っていただいた。6年後に再演した。

 1988年の設立以来、毎年欠かさず公演を続けてきた野薔薇座。新型コロナウイルス禍で活動休止を余儀なくされたが、一昨年の夏、孫悟空の冒険活劇をオペラ化したオリジナル作品「西遊記」で公演を再開することができた。

 今年は3月4、5の両日、広島市中区のJMSアステールプラザで「メリーポピンズ」を上演する。座員をはじめ、今もオペラ界で活躍する気心知れた歌手仲間、広島の演劇界で活躍する中田久美子さん、オーディションで選んだ子役たち。4歳から84歳までの出演者が感動を届けようと、稽古の真っ最中だ。

 野薔薇座の後援会の初代会長は瀬戸内海汽船名誉顧問の仁田一也さん、副会長はアンデルセン・パン生活文化研究所相談役の高木彬子さん。お二人とも90歳を超えられたが、今でも応援してくださっている。文化に限りなく理解をお持ちの方々だ。

 野薔薇座の舞台は出演者も観客も愛に満ちて幸せになっていただけることが目標だ。コロナ禍で公演資金に頭を悩ます日々。それでも父が名付けた「加寿子」は、明るく生きていく。 (声楽家、野薔薇座代表=広島市)=おわり

(2023年2月23日朝刊掲載)

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