ゲン削除に賛否 決定は市教委 見直し検討2有識者会議の議事録 児童に身近な教材/コイ捕ってよいのか
23年2月23日
漫画「はだしのゲン」を広島市立小の平和教育プログラムの教材から削除する市教委の方針で、中国新聞はプログラムの見直しを検討した二つの有識者会議の議事録を入手した。委員の間には「児童に身近な教材」「漫画の一部では被爆の実相に迫りにくい」と肯定、否定両面の評価があった。会議で削除を決めた形跡はうかがえず、市教委が最終的に判断した形だ。(宮野史康)
いずれも大学教授や教員で構成し、プログラム改訂の必要性を議論した2019年6月~20年2月の「検証会議」(13人)と、新教材の内容を話し合った20年8月~22年7月の「改訂会議」(7人)の議事録。計約70枚に及ぶ。
それらによると、委員の一人の小学校教諭が、教材でのゲンの扱いに関し「(浪曲の場面は)子どもには理解が難しい。漫画の場面が部分的に掲載されているが、一部分だけでは被爆の実相に迫りにくかったので、独自に紙芝居を活用したこともあった」と課題を挙げていた。
一方、別の小学校教諭は「児童にとても身近な教材でその思いを表現することはしやすい。難しい浪曲も教員が補足的に紹介できる。家族について考えることや戦争が全部奪ってしまうことを考えることができるのでは」と評価していた。
「誤解を与える」
市教委は今回の削除理由について、ゲンが家計を支えるために路上で浪曲を歌って小銭を稼いだ場面のほか、身重の母親に食べさせようと池のコイを盗んだ場面について、委員から「児童の生活実態に合わない」「誤解を与える恐れがある」との意見があったと説明している。
コイの場面は、委員の一人が「検証会議でゲンの是非は問題にしなかった」と断った上で「コイを捕ってよいのかと問題にされてしまう。どこから見ても耐え得る教材を作り出さなければならない」と問題提起。これに対し、別の委員は「シーンが他にあるのではないか」と意見していた。
また、原作者の故中沢啓治さんを紹介する高校生向けの教材に関連し、委員の中学校長が「市民から批判は入っていないのか」と質問。市教委は「はだしのゲンを(教材に)取り入れる時に意見はあったと把握しているが、中沢さんに対しての意見は把握していない」と説明していた。
13年度に開始
市教委は13年度に市立の全小中学、高校で平和教育プログラムを開始。ゲンは小学3年向け教材の「家族の絆」をテーマにした回で採用した。見直しは今回が初。検証会議の議論を踏まえ、市立校の教員による作業部会と市教委事務局で新教材の素案を作成。改訂会議で意見を聞き、修正を重ねた。最終的にゲンを削除した23年度からの新教材に対し、改訂会議から異論はなかったとしている。
市教委指導第一課は「はだしのゲンを引用した部分に限らず、検証会議の委員から課題に挙がった点は、全て見直す方針でプログラム改訂を進めていた。市教委がゲンの作品を否定しているわけではない」としている。
(2023年2月23日朝刊掲載)
いずれも大学教授や教員で構成し、プログラム改訂の必要性を議論した2019年6月~20年2月の「検証会議」(13人)と、新教材の内容を話し合った20年8月~22年7月の「改訂会議」(7人)の議事録。計約70枚に及ぶ。
それらによると、委員の一人の小学校教諭が、教材でのゲンの扱いに関し「(浪曲の場面は)子どもには理解が難しい。漫画の場面が部分的に掲載されているが、一部分だけでは被爆の実相に迫りにくかったので、独自に紙芝居を活用したこともあった」と課題を挙げていた。
一方、別の小学校教諭は「児童にとても身近な教材でその思いを表現することはしやすい。難しい浪曲も教員が補足的に紹介できる。家族について考えることや戦争が全部奪ってしまうことを考えることができるのでは」と評価していた。
「誤解を与える」
市教委は今回の削除理由について、ゲンが家計を支えるために路上で浪曲を歌って小銭を稼いだ場面のほか、身重の母親に食べさせようと池のコイを盗んだ場面について、委員から「児童の生活実態に合わない」「誤解を与える恐れがある」との意見があったと説明している。
コイの場面は、委員の一人が「検証会議でゲンの是非は問題にしなかった」と断った上で「コイを捕ってよいのかと問題にされてしまう。どこから見ても耐え得る教材を作り出さなければならない」と問題提起。これに対し、別の委員は「シーンが他にあるのではないか」と意見していた。
また、原作者の故中沢啓治さんを紹介する高校生向けの教材に関連し、委員の中学校長が「市民から批判は入っていないのか」と質問。市教委は「はだしのゲンを(教材に)取り入れる時に意見はあったと把握しているが、中沢さんに対しての意見は把握していない」と説明していた。
13年度に開始
市教委は13年度に市立の全小中学、高校で平和教育プログラムを開始。ゲンは小学3年向け教材の「家族の絆」をテーマにした回で採用した。見直しは今回が初。検証会議の議論を踏まえ、市立校の教員による作業部会と市教委事務局で新教材の素案を作成。改訂会議で意見を聞き、修正を重ねた。最終的にゲンを削除した23年度からの新教材に対し、改訂会議から異論はなかったとしている。
市教委指導第一課は「はだしのゲンを引用した部分に限らず、検証会議の委員から課題に挙がった点は、全て見直す方針でプログラム改訂を進めていた。市教委がゲンの作品を否定しているわけではない」としている。
(2023年2月23日朝刊掲載)