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弾道ミサイル7発発射 北朝鮮 日本海に 安保理決議無視

 北朝鮮は4日午前から午後にかけ、南東部江原道(カンウォンド)の旗対嶺(キテリョン)一帯からミサイル7発を発射した。韓国軍によると、いずれも弾道ミサイルで、北東方向に400~500キロ飛行、北朝鮮に近い日本海に着弾したとみられる。国連安全保障理事会の制裁決議を無視する行為で、日韓両国政府は北朝鮮を強く非難。米国と連携して制裁措置履行を徹底し、包囲網構築を進める。

 韓国全域を射程に収める短距離弾道ミサイル「スカッドC」(射程約500キロ)のほか、改良型や日本のほぼ全土を射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」(射程約1300キロ)を短く飛ばした可能性もあり、米韓両軍や日本の防衛省が詳しい分析を進めている。ノドンなどの追加発射の可能性もある。

 日本政府関係者は4日夜、スカッドCのほか「ノドンを交ぜて撃った可能性が高い」と語った。韓国のMBCテレビは、軍当局が軌跡などから6、7発目はノドンと判断していると報道。聯合ニュースも情報当局が1~3発はノドンの可能性が高いとみていると伝えた。

 今回の発射は、開発段階の長距離弾道ミサイルではなく、実戦配備済みのミサイルを発射することで軍事力を誇示する狙いもあるとみられる。

 韓国軍によると、北朝鮮は4日午前8時から8時半に2発、10時45分、正午、午後2時50分、4時10分、5時40分ごろに各1発を発射した。北朝鮮が「軍事射撃訓練のため」として東部沿岸の日本海に設定した長さ約450キロ、幅約110キロの航行禁止海域の東端付近に着弾したもようだ。

 旗対嶺では6月に入り発射台付き車両の動きが確認されていた。

 北朝鮮は国連制裁に激しく反発。日米韓への対決姿勢を鮮明にしており、今月4日の米独立記念日や8日の故金日成(キムイルソン)主席の命日に合わせて弾道ミサイルを発射するとの観測が出ていた。

 北朝鮮の弾道ミサイル発射は北東部咸鏡(ハムギョン)北道(プクト)の舞水端里(ムスダンリ)から「人工衛星打ち上げ用ロケット」として長距離弾道ミサイルを発射した4月以来。核実験を受けた6月12日の安保理決議は北朝鮮に弾道ミサイル技術を使った発射を二度と行わないよう要求している。

「重大な挑発行為」 日本政府

 政府は4日、弾道ミサイルを連射した北朝鮮に対し、北京の外交ルートを通じて「わが国を含む近隣諸国への安全保障上の重大な挑発行為」と厳重抗議するとともにさらなる発射の可能性も含め情報収集を行った。ただ、ミサイルが短射程か飛行距離を短縮していることなどから国連安全保障理事会の開催は求めず、冷静に対応する方針だ。麻生太郎首相は8日からの主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)で北朝鮮問題を取り上げる方針。実務者レベルでも米韓両国と中国、ロシアとの意見交換を進める。

 抗議は、今回の発射は、弾道ミサイル計画に関するすべての活動停止を要求した一連の国連安全保障理事会決議違反と批判。決議を履行し、拉致、核、ミサイル問題解決に向け、具体的行動を取るよう求めている。

 河村建夫官房長官が「厳重に抗議し、遺憾の意を表明する」との声明を発表した後、先の核実験実施を受け外務省に設置していた緊急対策本部を、弾道ミサイル発射も含めた緊急対策本部に改組。首相官邸の対策室とともに警戒監視と情報分析に努める方針だ。

ノドン
 北朝鮮が開発した単段式の中距離弾道ミサイル(射程約1300キロ)。日本に向けて発射されれば10分以内に着弾するとされる。1993年5月の日本海への発射実験を経て97年ごろから実戦配備。中東諸国にも輸出され、パキスタンのガウリ、イランのシャハブ3はノドンが基になっているとみられている。発射台付き車両で運用され、発射位置を事前に捕捉するのは困難。2006年に在韓米軍司令官は北朝鮮が約200基保有しているとの推定を公表、最大320基保有との情報もある。

(共同通信2009年7月4日配信、7月5日朝刊掲載)


識者談話 米への示威行為 韓国揺さぶりか

■記者 吉原圭介、林淳一朗

 北朝鮮が4日、相次いでミサイルを発射した背景や狙いについて、識者に聞いた。

○広島市立大国際学部の金栄鎬(キムヨンホ)准教授(47)

 4月のミサイル発射や5月の核実験に続く一連の動きとみるべきだ。米国の独立記念日にあえてミサイルを多く打っているのは、米国に対するデモンストレーション(示威行為)だろう。

 核兵器をカードとして米朝関係を優位にしようとする狙いは、ある意味、うまくいっている。カードの価値は高まっている。一方、国内的には金正日(キムジョンイル)総書記の継承問題も絡み、国威発揚を狙っているのだろう。

○東西大学校(韓国・釜山)国際学部の奥薗秀樹助教授(45)=前広島国際学院大准教授

 ミサイル技術を試す軍事訓練とも考えられるが、米国との協議に向け、核兵器やミサイルを持つ国として優位に立とうという意思があるのだろう。強硬姿勢を示す韓国政府への揺さぶりもあるのではないか。

 短距離弾道ミサイルなら射程はせいぜい韓国で、中距離の「ノドン」は日本まで届く。日本はミサイルの種類をきちんと分析する必要がある。国連安保理の決議違反という非難はもちろん、米国や韓国、中国やロシアと歩調を合わせ、即座に北朝鮮へ強いメッセージを送ることが肝心だ。


北朝鮮ミサイル 「抗議無視の暴挙」 広島市長

■記者 永山啓一

 北朝鮮の弾道ミサイル発射を受け、広島市の秋葉忠利市長は4日、「国際社会からの強い抗議の声をまったく無視した暴挙。極めて激しい憤りを覚える」とのコメントを発表した。6カ国協議に応じるなど、国際社会との対話と協調を北朝鮮に強く求めた。

(2009年7月5日朝刊掲載)

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