×

ニュース

ゆかりの作家ら 那須さん追悼集 作品に込めた思い読み解く

 おととし79歳で亡くなった広島市出身の児童文学作家・那須正幹さんをしのび、ゆかりの作家たちが作品を読み解いた「『ズッコケ三人組』の作家・那須正幹大研究 遊びは勉強 友だちは先生」が、ポプラ社(東京)から刊行された。人気シリーズにとどまらない那須作品の多彩な魅力を伝えるとともに、被爆体験を原点に那須さんが子どもたちへ届けた平和のメッセージの真意に迫る一冊だ。

 編んだのは、児童文学評論家で作家の藤田のぼるさんたち3人とポプラ社編集部。親交のあった作家や研究者、俳優たちが、那須さんに宛てた手紙や評論、エッセーなどを寄せた。

 「ズッコケ三人組」シリーズで人気を博した那須さんは、3歳の時に爆心地から約3キロの自宅で被爆した。原爆や戦争を題材にした作品を残しただけでなく、当時の記憶や戦後の歩みを自らの言葉で語り、エッセーなどもしたためた。本書ではそれらを引用して時系列で紹介。中国新聞の連載「生きて」などで語った言葉も収めている。

 200冊を超える本を世に送り出した那須さん。作家仲間たちが「遊ぶ」「生きる」といった八つのキーワードで作品を取り上げ、そこに込められた思いを解き明かした章も興味深い。東区在住の児童文学作家中澤晶子さんは平和記念公園(中区)にある「原爆の子の像」建立運動に子どもの目線で迫ったノンフィクション「折り鶴の子どもたち」(1984年)と、絵本「絵で読む 広島の原爆」(95年)を挙げ、「事実と向き合うことの重さ」を説いた。

 那須さんが生まれ育ち「ズッコケ三人組」の舞台にもなった西区己斐地区などゆかりの地を巡って、本書にルポも執筆した中澤さんは「那須さんの作品には今も続く戦争に私たちがどう向き合えばいいのか、考えるヒントがちりばめられている」と語る。

 仕事を共にした画家や編集者による座談会や、数ある作品から各界のファンが一推しを選んだアンケートも掲載している。

 とりわけ印象的なのは、那須さんが90年に「なぜ日本は平和なのか」と題して子どもたちに宛てたエッセーだ。「きみたちの心のなかに、戦争はいやだという気持ちがどれほど強く、その気持ちが、政治を動かすだけの力になれるか、不安なのです」とつづり、「沈黙したとたん、戦争はたちまち、きみのまわりに忍びよってくるにちがいない」と訴えている。

 ロシアによるウクライナ侵攻で多くの命が奪われ、世界は不穏さを増す。那須さんの言葉は色あせていない。四六判、222ページ。2970円。(石井雄一)

(2023年2月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ