×

ニュース

露のウクライナ侵攻1年 元国立天文台長・浄土真宗本願寺派長円寺住職 観山正見さんに聞く

小さな惑星 かけがえのない命

宇宙に通じる 仏教の平等思想

人間同士の殺し合い 言語道断

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年。世界中から抗議の声が上がっても、力による一方的な現状変更を望む為政者の姿勢は変わらない。広い宇宙の視座で考えれば、地球という一つの惑星の上で争い合うことが無意味に思えはしないか―。そう考え、国立天文台の元台長で浄土真宗本願寺派長円寺(東広島市)住職の観山正見さん(71)に話を聞いた。仏教の壮大な宇宙観には、平等に与えられた命の大切さが込められていた。(山田祐)

  ≪宇宙から見ると、地球って本当に小さな存在なんです。≫

 広い宇宙全体を地球の大きさに置き換えて考えてみてください。銀河の集団である銀河団は小さな都市、私の寺がある東広島市より少し小さいくらいの大きさになります。一つの銀河は、太陽と同じように自ら光を発する恒星が千億から2千億個も集まったものですが、これが体育館ぐらいのイメージです。

 地球はと言えば、ウイルスよりもずっと小さいスケールなんです。本当に小さな惑星の上に国境線を引いて争い合っている。何と愚かなことかと思います。

 銀河、銀河団、その先に広がる大宇宙。この三つの階層に分かれた宇宙の構造は、実は仏教で説く「三千大千世界」という世界観に通じています。平等思想が込められた大切な教えです。

 その世界は須弥山(しゅみせん)という架空の山を中心とする世界に、人間が住んでいます。須弥山世界が千個集まって小千世界、それが千個集まって中千世界、さらに千個集まって大千世界となります。その全体像を三千大千世界と呼びます。小千世界が銀河、中千世界が銀河団、大千世界が大宇宙と考えることができます。

 仏教の教えの中で特に宇宙を連想させる部分です。科学が発達していない、はるか昔から宇宙の階層構造を的確に捉えていることに驚きます。たくさんの世界があるけれど、どの世界が優れている、という区別はしないんです。人間として平等に命をいただいているものが殺し合いをするなんて。言語道断です。

 昨年、航空宇宙局(NASA)が公開した欧州の夜の衛星画像では、攻撃を受け電力危機となったウクライナ近辺だけが真っ暗になっていました。宇宙からの視点で、現地の人々の苦境が、はっきりと伝わってきました。

 地球規模でも多角的に考えてみましょう。ロシアは侵攻開始後、核兵器の使用すらもちらつかせました。世界でさらなる核兵器開発、軍備拡張が進んでしまわないだろうか。環境問題の解決に向けた協調が失われてしまわないだろうか。心配は尽きません。

 ≪一人一人が長い宇宙の歴史を背負った、かけがえのない存在なんです。≫

 小さな地球に住む私たち人間ですが、その体には長い宇宙の歴史を背負っているんです。

 人は一説には60兆個の細胞でできていると言います。その細胞はさまざまな元素から成りますが、宇宙の始まりの頃は、われわれを作る元素は水素くらいしかありませんでした。

 星が生まれては新たな元素を作り、爆発して宇宙に放出する。その中から次の星が生まれる。90億年にわたってそれを繰り返し、地球ができました。そして60兆個の細胞でできた人間が誕生します。

 この体の中の元素は、すべて宇宙から来たもの。一人一人が宇宙の長大な営みの歴史を経て、60兆個の細胞を持つ個体となっているんです。それぞれが貴重な存在ということです。個人の存在を大切に敬う必要があると分かります。

 それなのに、どうして人間は戦争を繰り返してしまうのでしょうか。仏教の基本的な教えから見えてくるのは、人生は苦であるということです。思い通りにならないことを苦と言います。煩悩、つまり欲求があって、その欲求通りにならないから苦しい。

 相手の国を思い通りにさせたいという欲求。ロシアによるウクライナ侵攻には、人間の非常に弱い部分が現れているのだと思うんです。

 為政者たちにも、時には上を向いて大宇宙の広がりに思いをはせてみてほしいと思います。宇宙とは、われわれと切り離されたものではなく、宇宙の歴史を体の中に持っている。その歴然とした事実を感じることができるはずです。

(2023年2月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ