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社説・コラム

社説 入管難民法改正案 抜本見直し なぜできぬ

 政府は3月にも、入管難民法の改正案を国会に再提出する構えだ。2年前に出したが、母国に戻れば迫害される恐れのある人による難民申請の回数を制限するなど、人権を今まで以上に軽んじる内容だった。国内外から批判され、廃案に追い込まれたのも当然だったと言えよう。

 にもかかわらず、今回も大筋で2年前の案を引き継いでいる。なぜ、人権軽視の姿勢を抜本的に改めようとしないのか。

 改正案には、改善点が幾つか盛り込まれている。例えば、不法滞在者らを入管施設で収容するのに代え、一時的に社会の中で生活できるようにする新たな制度「監理措置」の創設だ。今回はさらに支援者ら「監理人」に課す定期的な報告義務をなくし、負担を軽減する。収容された人には、3カ月ごとに監理措置へ移行できないか、見極めることを明文化するという。

 加えて、現行の難民認定基準を満たさなくても難民に準じる人は「補完的保護対象者」と位置付けて在留を認めるという。現在、ロシアの侵攻でウクライナから逃れてきた人たちは「避難民」として特例扱いにしている。そうした人が念頭にあるのだろう。とはいえ、難民は国に保護責任があるが、避難民にはないことを忘れてはなるまい。

 こうした点は、一歩前進と言えるのかもしれない。ただ、問題の根っこは全く変わっていない。難民申請の回数を原則2回に制限した点だ。申請中は本国への強制送還を停止するという現行規定の改悪と言える。3回目からは申請中でも送還できるようになってしまうからだ。

 2年前、「国際的な人権基準を満たしていない」と国連人権理事会の特別報告者が法案の再検討を求めた点である。こうした批判に、なぜ真剣に向き合わないのだろう。理解できない。

 背景には、「難民鎖国」と言われるほど難民に冷淡な日本の現状がある。1982年に難民条約に加わり、それ以降、受け入れた難民は2021年まででわずか915人。認定率は1%を下回り、数十%の他の先進国と大きな開きがある。帰国すれば命の危険があり、難民として保護されるべき人を日本が認定していない恐れは拭えない。

 収容に際しての問題もある。現行では、不法滞在などの疑いのある外国人を全員、強制送還するまで無期限で収容するのが原則という。しかも収容するかどうかは入管の裁量次第だ。

 刑事事件での手続きと比べると異常さが際立つ。身柄の拘束には警察や検察、裁判所の判断が必要で、刑務所に入れば刑務官が管理する。入管の場合、収容は全て入管だけが判断し、外部のチェック機能は働かない。裁判所など入管以外の判断を義務付けることが求められる。

 人権軽視の組織風土は、現場まで浸透している。そんな懸念が消えない。2年前、名古屋の入管施設で収容中のスリランカ人女性が死亡した事件を機に意識改革が図られているという。外国人を邪魔者のように扱う法体系自体から変えなければ、どれほど効果があるのだろう。

 性的少数者を巡って、政府の人権感覚の欠如が先日、明らかになった。外国人に対しても同じなのかが今、問われている。本気で人権を尊重するつもりなら、入管難民法の改正案は根本的に考え直すべきである。

(2023年2月28日朝刊掲載)

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