×

ニュース

殿敷作品 光求める力 広島市現代美術館で所蔵品展 森村さん 転換点に注目

 「作風の鮮やかな転換はゴッホにも重なる」。現代美術の第一線で活躍する森村泰昌さん(62)=写真・大阪市=は、広島市出身の殿敷侃(ただし)(1942~92年)の創作をそう表現し、注目している。同市南区、市現代美術館の所蔵品展に殿敷の作品が出展されているのにちなみ、対談で語った。

 名画の中や歴史上の人物に自ら扮(ふん)した写真作品などで知られる森村さん。「殿敷侃再考」と題した同館での対談は、殿敷と親交があった下関市立美術館の濱本聡館長が相手を務めた。

 殿敷は広島で入市被爆し、父が被爆死、母も原爆症で亡くした。70年代、肉親の遺品をモチーフにした点描の細密画などを発表する。「喪失感を埋めようとするような筆致だった」と振り返る濱本さんに、森村さんは「点描の一点一点が、死の空白にあらがう命の表現だったのでは」と応じた。

 82年、ドイツ・カッセルであった現代美術展を訪れて衝撃を受けた殿敷は、作風を一変する。廃タイヤ、廃家電、漂着ごみなどを使った野外の大作へ。その転換を、森村さんは「パリに出て、暗い農民画から光あふれる画風に変わったゴッホのよう」と語る。

 「ゴッホも殿敷さんも、光を求める強い願いが、最初は暗い絵に表れた。その内へ向かうエネルギーがある時、外へ反転する」

 森村さんは今夏、横浜市で開幕する国際美術展「ヨコハマトリエンナーレ2014」のアーティスティック・ディレクターを務める。テーマは「忘却」に向き合うこと。殿敷作品の出展も構想している。

 ヒロシマを刻印する点描を経て、捨てられゆく廃棄物にも目を向けた殿敷。その創作は「忘却にあらがう姿勢に貫かれている」とみる。

 殿敷の11点を含む広島市現代美術館の所蔵品展「コドクノチカラ」は23日まで開かれている。月曜休館。(道面雅量)

(2014年2月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ