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社説・コラム

天風録 『瀬戸の多島美、ひとしお』

 「瀬戸内海美論」に社会活動家賀川豊彦がつづっている。「島々をつたいあるくと、星から星にわたり歩くような気持ちがする」。ノーベル文学賞と平和賞の候補にもなった人である。多島海に遊ぶ心地よさを見事に伝えている▲60年以上前の描写である。現代に生きていたら、しまなみ海道で「星から星に」サイクリングを楽しんだはず。これまで700余りとされてきた瀬戸の島々が実際はもっと多かったと知れば、なお称賛するに違いない▲日本の島を国土地理院が35年ぶりに数え直したところ、6852から1万4125に大きく増えた。外周100メートル以上を島とする。測量技術の進歩や地図の電子化によって、正確な把握が可能になったというが、一気に倍増とは驚く▲前回調査は縮尺2万5千分の1の海図を手作業で数えており、見落としていたか。広島県の島数も29増える。戦時中に毒ガスを製造していたため竹原市沖の大久野島は地図から消された。今度は漏れも秘匿もあるまい▲「日本で見た最も美しい景色の一つ」。その昔、ドイツ人医師シーボルトも瀬戸内海をそう記した。島数アップで箔(はく)が付くか。星の数まではいかなくとも誇らしい多島美である。

(2023年3月2日朝刊掲載)

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