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連載・特集

2023統一選118万都市の今 広島市民の声から <3> 平和行政

被爆伝承の熱意くまず

大人に少ない学ぶ機会

 遺影から若さがあふれている。2歳の時に広島市西観音町(現西区)で被爆した村上恒雄さんは20年後、22歳の時に白血病で亡くなった。妹の小西博子さん(74)は東区の自宅で在りし日をしのび、訴える。「次代への警鐘として、兄の無念さを伝えたいという思いを尊重してもらえないのだろうか」

条件合わず断念

 被爆者が高齢化する中、市は2022年度に、被爆者の体験を親類が語り継ぐ「家族伝承者」の養成を始めた。小西さんは兄だけでなく、やはり被爆した祖父母や両親の体験を伝えようと、応募を思い立った。しかし、全員亡くしており、「存命の被爆者」を対象とする市の条件に合わず、断念した。

 中国新聞が市内の有権者200人に聞いたアンケートでは、市の平和行政について「評価する」と「どちらかと言えば評価する」が6割を占めた。多くは学校での平和教育の有効性を挙げ、「被爆証言を子どもたちに聞かせる機会が多い」(佐伯区の40代男性)「平和教育は広島らしくていい」(佐伯区の10代女性)といった意見が並んだ。

 一方、回答者の3人に1人が「どちらとも言えない」を選んだ。「子どもの頃は授業で原爆や被爆後の広島を学んだが、大人になって学ぶ機会や被爆者に接する機会はない」(西区の20代女性)「他県出身なので被爆証言も聞いたことがない」(佐伯区の20代男性)。大人が原爆・平和問題に触れる機会が少なく、平和行政への関心に濃淡がある様子が浮かぶ。

 被爆者健康手帳を持つ全国の被爆者のうち広島市管理分は22年3月末時点で3万9590人となり、ピークだった1975年度末の11万4542人の3分の1だ。平均年齢は84・1歳。広島平和文化センター(中区)に登録する「被爆体験証言者」は32人しかいない。

研修打ち切りも

 「被爆者がいなくなる時に備え、継承を願う市民の意思を大切にしてほしい」と小西さんは言う。幅広い世代への関心喚起のためにも、行政の「お墨付き」を得て活動できる伝承者の意義は大きいが、市は市民のやる気に応え切れておらず、ちぐはぐ感が否めない。「存命の被爆者の体験を一人でも多く掘り起こしたい」「被爆者本人に納得してもらえる中身にする必要がある」との立場だ。

 同様の理由で、被爆者の記憶を第三者たちが語り継ぐ「被爆体験伝承者」でも、証言者が亡くなると、研修が打ち切りとなるケースが相次ぐ。伝承者の藤川晴美さん(68)=安佐北区=は、証言者による内容の確認にこだわる市の姿勢を疑問視。「現状に即した見直しを検討する時では」と提案する。

 被爆の惨禍を繰り返させない―。その訴えを世界に響かせ、次世代へ紡ぐため、被爆者なき時代への備えが急がれる。(小林可奈)

広島市の被爆体験の伝承事業

 市は2022年度に、家族の被爆体験を受け継いで伝える「家族伝承者」の養成を開始し、初年度は54人が応募した。2年程度の研修を経て活動する。被爆者が担う「被爆体験証言者」の記憶を第三者たちが語り継ぐ「被爆体験伝承者」は12年度から養成し、現時点で164人。原爆資料館(広島市中区)や市内の小中学校で語っている。いずれの事業も、活動開始前に被爆者本人に講話内容を確認してもらうのを要件としている。

(2023年3月3日朝刊掲載)

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