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社説・コラム

天風録 『大国、中国の行方』

 「残念ですが、読者は中国のことなど一切興味がありません」。原稿を持ち込んだ出版社の返事は、けんもほろろ。世に出るやベストセラーとなる米国人作家のパール・バックの代表作「大地」も、最初は散々だった▲宣教師の父に連れられ、赤ん坊のころ渡った中国で40年近く暮らしたバック。ノーベル文学賞受賞の知らせを聞いたときも、まずは中国語で「本当かしら」と驚いたほどだ。現地の農民を描いた「大地」は人々の中国理解を深めるきっかけになった▲いずれ世界の大国になるとも予見していた。その名に恥じない振る舞いができているのか、今や国際社会の目が向いている。試金石とも言える中国の国会、全国人民代表大会がきのう始まった▲ロシアとウクライナの戦火を止めると仲介役に手を挙げている。ただ、ロシアに肩入れしながらでは信じられない。何より、イエスマンで固めた「1強」体制に感じるのは危うさだけだ▲バックが80歳で亡くなって、きょうで半世紀となる。人民を苦しめた文化大革命を辛辣(しんらつ)に批判する小説も書いたが、古里とも言える中国を愛するが故。異論を排除しようとする共産党政権に、その思いが届く日は来るだろうか。

(2023年3月6日朝刊掲載)

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