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社説・コラム

社説 中国全人代開幕 大国の責任放棄するな

 中国の全国人民代表大会(全人代)がきのう開幕した。日本の国会に当たり、13日までの会期中、習近平国家主席の3選が確定する見込みだ。

 習氏は昨年秋の中国共産党大会で、異例の党総書記3期目入りを実現した。率いる党指導部の下で、首相らを選んで新体制を発足させる。深まる内憂外患に対し、大国に見合った責任を果たす政策とメッセージを出せるのか。国際社会からはより厳しい目が注がれている。

 とりわけ経済は昨年の国内総生産(GDP)成長率が3・0%にとどまり、政府目標の5・5%前後を下回った。新型コロナウイルス禍を抑え込む3年近い「ゼロコロナ」政策の影響が大きい。中長期に見れば、10%を超す高度成長はもう望めない転換期だと言えよう。

 政府活動報告で今年の目標を「5・0%前後」と現実的に引き下げた。内需拡大の方針を強め、インフラ投資など財政出動で下支えする目算だ。ただ、危ういほど習氏個人に権力を集中させた体制で乗り切れるのか。

 国内を見れば、経済成長のマイナス要因ばかりが目につく。依然として不動産の不況は深刻だ。世界最多だった人口が61年ぶりに減少し、インドに抜かれた。急速な少子高齢化や所得格差は成長を阻む。

 独裁体制による政策は弊害が少なくない。象徴はゼロコロナだろう。ロックダウン(都市封鎖)と突然の解除での感染爆発は、市民生活に閉塞(へいそく)感をもたらし、消費は冷え込んだ。習氏が主導すれば誰も変えられない体制のひずみを露呈した。

 格差解消を図る「共同富裕」を急ぐあまり、民間のIT企業の自由を制限する手法も弊害が目立つ。民意をくまない習指導部の10年で、成長が鈍化したのは偶然ではなかろう。

 習氏は国家主席に就くに当たり、憲法を改正して任期10年の制限を撤廃した。指導部の人事はこぞって習氏への忠誠心を基準にする。新首相と見込まれる李強氏は側近で党序列2位だが、副首相の経験がなく手腕は未知数だ。権力の行き過ぎにブレーキをかける仕組みを廃し、率直に政策議論もできない体制では暴走しかねない。

 外交も懸案が山積みだ。貿易や安全保障を巡る米国との対立は激化し、欧州でサプライチェーン(供給網)での「脱中国」の動きが強まる。中国自身の振る舞いが招いたと言える。

 最大の気掛かりはロシアのウクライナ侵攻への対応である。国際法違反を繰り返すロシアを非難せず、国連決議の採決では棄権か反対の立場を崩さない。欧米の経済制裁を受けるロシアから、原油や天然ガスのエネルギーを大量に輸入している実態も明らかになった。

 これでは、国際社会の信頼は得られない。プーチン大統領は独裁の下、自らの歴史観を背景に誤った判断をし、世界的なダメージを膨らませる。一線を画せるかが注視される。

 2023年予算案で、国防費は7・2%増を計上した。台湾統一を目指し「武力行使の放棄は約束しない」と言明する習氏に、国際社会の警戒が強まるのは当然である。

 経済、軍事大国の中国を抜きに世界の安定は図れない。中国も孤立できないはずだ。大国の責任を放棄してはならない。

(2023年3月6日朝刊掲載)

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