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社説・コラム

社説 トルコ・シリア地震1ヵ月 対立超え支援急がねば

 トルコ・シリア大地震が起きて、あす1カ月になる。マグニチュード(M)7・8の地震で両国では5万人を超す人が亡くなった。阪神大震災や東日本大震災を上回る死者数には、かける言葉も見つからない。

 犠牲者はさらに増える可能性があり、倒壊した建物や、倒壊の恐れがある建物も合わせて20万棟に近い。重機も入れられず、被災建物の撤去や取り壊しも進んでいない。200万人近くがテントなどでの避難生活を強いられる現状は心配だ。

 学校施設が被災して学べなくなった子どもはトルコだけでも400万人を数えるという。身体だけでなく、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症するケースも少なくないとされる。被災地支援に世界が結束して取り組む必要がある。

 トルコには長大な活断層「東アナトリア断層」があり、大地震を起こす危険は以前から認識されてきた。ここまで大きな被害となったのは、この断層での最初の揺れから9時間後、分岐する別の活断層でもM7・5の地震が連続したからだろう。

 トルコの耐震基準がお粗末だったわけではないが、現実には緊急時の避難所となる学校やモスクも、ことごとく崩壊している。現行の耐震基準に沿った補強工事が進んでいなかったとも指摘されている。屋内を使いやすくするために柱を切るなどの違法行為も一部の建物に横行していたというから驚く。支援と共に、十分な分析と検証が欠かせない。

 トルコでは5月に大統領選挙と議会選挙が行われる予定になっている。政府は仮設住宅の整備などを急いでいるが、野党は建物耐震化の遅れや初動対応の不備を強く批判して政府を攻撃している。野党の指摘はもっともではある。しかし、まずは復興復旧策を最優先すべきだろう。場合によっては選挙期日の延期も検討せねばなるまい。

 内戦が続くシリアには、また違う状況がある。反体制派が支配する北西部には支援物資が行き渡らなくなっているからだ。

 欧州連合(EU)などはシリアへの制裁を一時緩和すると表明した。北西部に物資の輸送を加速させる狙いは評価できる。

 ただ、物資の横領が取り沙汰されているとして米国がアサド政権を、ロシアが反体制派をそれぞれ非難しているのはいただけない。求められているのは非難の応酬ではなく、どうすれば支援物資が被災地に確実に届けられるか、であるはずだ。

 世界保健機関(WHO)によると、被災者は両国で2600万人にも上るとされる。テントなどでの避難生活が長引けば、体調不良者も今後さらに増えていくことが避けられまい。

 日本には積極的な役割を果たしてもらいたい。阪神大震災や東日本大震災の経験を通じ、建物耐震化やがれき処理の技術提供で大きな貢献ができるはずだ。トルコ北西部が震源となった1999年の地震では、インフラ修復の専門家や技術者が現地に派遣され、その後の国際交流につながった実績もある。

 東日本大震災では日本赤十字社分だけでも225億円の義援金が海外から寄せられた。その恩義も忘れてはなるまい。政府だけではなく、私たちにもできることはある。被災地への支援の手を伸ばし続けたい。

(2023年3月5日朝刊掲載)

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