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社説・コラム

社説 元徴用工問題 韓国提案 現実的解決策 評価する

 日韓両国の関係改善に向けた歴史的転換点になってほしい。

 両国間の最大懸念だった元徴用工問題の解決策を韓国政府が正式に表明した。

 2018年に韓国最高裁が日本企業2社に支払いを命じた賠償金について、韓国政府傘下の財団が肩代わりして対応することなどが柱になる。

 最高裁判決を尊重しつつ、1965年の日韓請求権協定で解決済みとする日本の立場も認めた内容は、問題の解決を図る現実的な選択肢なのだろう。

 日韓関係は、文在寅(ムン・ジェイン)前政権時に戦後最悪と言われるまでに悪化していた。隣国同士の冷え切った関係を改めるべく、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が決断に踏み切ったことは評価に値する。日本も新しい関係を築くため、隣国に誠実に向き合うことが必要だ。

 韓国の朴振(パク・チン)外相は解決策の発表にあたり「厳しい国際情勢の中、長期間にわたり膠着(こうちゃく)した両国関係をこれ以上放置せず、対立を超えて未来に向かう新たな歴史的機会だ」と表明した。これに対し、林芳正外相も「日韓関係を健全な関係に戻すものとして評価する」と応じた。

 米国も日米韓の協力関係を重視する。バイデン大統領が声明を発表し、両国の関係改善を高く評価したのもうなずける。

 韓国が解決策を提示した1月以来、水面下での両国間の対話が進んでいるのだろう。日韓両政府は、両国間にある懸案事項に一括して対処する方策を模索しているようだ。

 これまでの冷え切った政治関係が経済や安全保障体制にも悪影響を与えていたことは否めない。解決策表明を受け、日本は早速、対韓輸出規制の解除を韓国と協議すると発表した。首脳の相互往来再開を含め、関係正常化を急ぐべきだろう。

 その取り組みは、解決策が韓国内政の対立の材料にされることを回避することにもつながる。慰安婦問題を巡る日韓合意が韓国内政の混乱で空文化した失敗を繰り返してはなるまい。

 両国とも未来志向の関係を高めることを最優先に努力を重ねてもらいたい。広島市で5月にある先進7カ国首脳会議(G7サミット)へ、尹大統領をオブザーバーで招くことを政府は検討してもいいのではないか。

 解決策で韓国政府は日本に対して、新たな謝罪や資金の拠出を求めていない。自発的な対応が日本に求められる中で、岸田文雄首相はきのう、国会答弁で「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継ぐ」との考えを示した。関係改善を「ボールは韓国側にある」と突き放してきた、これまでの姿勢を改めたことは評価できる。

 韓国政府は、請求権協定の経済協力金で成長した韓国企業が財団に資金を出し、支払い原資に充てるとしている。一方で、日本企業にも自発的な寄与を求めている。日本政府は解決策表明を受け、日本企業の自発的な寄付金を認めると表明した。日本企業も熟慮する場面だ。

 覇権主義的な動きを強める中国や、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威は高まっている。アジアの安定には日米韓3国の結束と協調が欠かせないことは言うまでもない。

 日韓両国は不幸な歴史を乗り越える大きな潮目を迎えている。友好関係を再構築する、この好機を逃してはならない。

(2023年3月7日朝刊掲載)

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