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社説・コラム

社説 H3打ち上げ失敗 徹底的に原因の究明を

 機体が雲間に消え、成功と思ったのもつかの間だった。わが国の宇宙開発は大きな見直しを迫られよう。

 日本の主力ロケットとして開発された「H3」1号機の打ち上げがきのう失敗に終わった。発射はしたが、2段目エンジンが点火しなかった。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は搭載した地球観測衛星を予定軌道に投入できないと判断、地上から信号を送って機体を破壊した。

 2月17日には発射寸前に機器の誤作動によるトラブルで直前に打ち上げを中断し、対策を講じた上での再挑戦だった。

 満を持した新型ロケットの打ち上げに失敗したことで、米国主導の月探査計画など次代の宇宙開発への参加や海外の衛星打ち上げ受注を狙う戦略はつまずいた。日本の技術への国際的な信頼性が問われる局面である。

 H3は、2001年に登場したH2Aロケットの後継機として、14年からJAXAと三菱重工業が共同開発してきた。

 H2Aは打ち上げの成功率が世界に誇る98%に達する一方、費用が1回約100億円と高い。衛星の打ち上げ能力を1・3倍に、費用は半分の約50億円にし、国際競争力を高める目標が設定された。

 24年度には日本の火星探査機打ち上げを予定し、将来は政府の宇宙基本計画に沿って月周回基地に物資を届ける新型無人補給機の打ち上げに用いることを想定。さらに、衛星打ち上げを三菱重工に移管して市場参入を図ることを計画している。

 だが主力エンジンの開発がうまくいかず、1号機打ち上げは当初予定の20年度から延期を繰り返した。これまでに投じられた開発費は2千億円を超える。

 それだけに今回の失敗の衝撃は大きい。記者会見したJAXAの山川宏理事長は「原因を究明し、早期に信頼を回復していくことが最優先の課題」と述べた。2号機のめどは立たなくなったが、まずは徹底した原因の解明に努めてもらいたい。

 開発陣は相当追い込まれていたとされる。開発スピードと低コスト化に、信頼性確保が追いつかなかったことが失敗の背景にあったのだろうか。計画自体に無理はなかったのか。技術的な問題とともに調べる必要があろう。JAXAの宇宙医学研究でデータ捏造(ねつぞう)などが発覚した問題では、研究全体がずさんでJAXAの組織的責任が問われたことも忘れてはなるまい。

 昨年、JAXAは小型固形燃料ロケットのイプシロン6号機で失敗し、日本の衛星打ち上げはゼロだった。片や三菱重工は先月、ジェット旅客機開発からの撤退を発表した。ロケットやジェット機の分野で開発力は低下していないのか心配になる。

 ウクライナ危機の影響は宇宙にも及ぶ。ロシアは侵攻後、欧米などの衛星を打ち上げていない。地球観測や安全保障のための情報収集の衛星を自力で打ち上げる能力を保持し続けるなら、官民で開発の体制強化や人材育成を急ぐ必要があろう。

 一方で打ち上げビジネスの費用面の競争は非常に厳しい情勢にある。日本が勝ち抜くのは容易ではない。  失敗を糧に、日本は宇宙開発にどんな戦略で挑むのか。明確な目標や必要な費用などを国民に説明し理解を得る努力が求められる。

(2023年3月8日朝刊掲載)

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