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広響コンサート 第335回定期演奏会 絶望の底で奏でる再生

 「悲しみや怒りの底に再生への希望を託した」音楽。広島市出身でドイツを拠点に世界的に活躍する作曲家、細川俊夫の「星のない夜―四季へのレクイエム」が、広島交響楽団第335回定期演奏会において広島初演された。

 指揮は、首席客演指揮者として最後の公演となるヘンリク・シェーファー。プログラムの前半は、彼と同じドイツ語圏からで同年生まれの作曲家、モーツァルトの「フリーメーソンのための葬送音楽ハ短調」と、ヨーゼフ・マルティン・クラウス「交響曲嬰ハ短調」。いずれも、少し力みが感じられたのが残念だ。

 後半では演奏に先立ち、細川自身の舞台あいさつと曲の紹介が行われた。九つの楽章からなる本作は、広島への原爆投下と、その半年前にドイツのドレスデンを襲った大空襲という二つの大量殺りくを四季の「循環」に重ね、愚行を繰り返す人類の救いがたさとして表現する。

 「過ちの繰り返し」に絶望を見、ここまで表現できた音楽は、筆者の知る限りそれほど多くない。一見、言葉や概念に先行されがちな作品構成ではあるが、声にならない声、音にならない音を、各奏者が見事に表現した。高尾六平と藤井美雪による空襲、被爆証言の重みをより鮮明にしていたと思う。繰り返される惨劇の後、絶望と希望のふちにたたずむ天使をうたった半田美和子の声は、悲しみに美しさを伴わせ、当夜の極みであった。

 ところでこの日は、張り詰めた緊張感が舞台よりも観客席に満ちていたのが印象的だった。こうした会場の空気は、奏者の演奏を大きく左右する。最後の一振りの後に続いた長い沈黙と、いつまでも鳴りやまない拍手。記念すべき広島初演は、奏者と観客が一体となってつくり上げたといえるだろう。(能登原由美・「ヒロシマと音楽」委員会委員=京都市)

(2014年2月14日朝刊掲載)

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