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降雨域の再検証 停滞 「黒い雨」国の検討会 発足から2年余り 出ぬ結論 被爆者ら不満

調査費すでに6億円

 原爆が落とされた後、広島に降った「黒い雨」の援護対象区域(大雨地域)を巡る国の再検証が滞っている。有識者検討会は2020年11月の発足から2年3カ月過ぎたが、結論を出すめどが立っていない。厚生労働省は検証に投じてきた6億7900万円をさらに積み増し、23年度も検証を続ける方針だ。被爆者からは「スピード感がなさ過ぎる」との不満が出ている。

 大学教授や気象学の専門家、弁護士たち11人でつくる検討会は、国が定める大雨地域の妥当性を探ってきた。この地域内で黒い雨を浴びた住民は無料で健康診断が受けられ、さらに国が定める11疾病と診断されれば被爆者健康手帳が交付されるため、被爆者は拡大を期待した。

 ところが第6回となる昨年4月を最後に会合は開かれていない。検証の肝となる、77年前の被爆当時の気象を再現するコンピューターシミュレーションの解析に「時間を要している」(厚労省原爆被爆者援護対策室)ためという。当初、21年度中にも出すとしていた結論は導けておらず、23年度予算案にも調査費を追加する事態となっている。

 これまで投じた予算は21年度当初の1億5千万円と同年度補正の3億5900万円、22年度当初の1億7千万円。追加費用について厚労省は「追加調査の発注に必要な入札に支障が出る」と明らかにしない。

 検討会と並行して国は、原告全84人を被爆者と認めた21年7月の広島高裁判決を受けて被爆者認定の新たな基準作りにも着手。幅広い被害者救済を明記した菅義偉首相(当時)による政府談話を踏まえ、22年4月には過去の白内障手術歴などで被爆者と認める新基準を定めた。

 被爆者の認定実務を担う広島県、市は既に新基準に沿った認定審査をしている。検討会の存在意義は「発足時と比べれば薄れた」(県被爆者支援課)との指摘もある。

 検討会メンバーで、5歳の時に被爆した日本被団協の木戸季市事務局長(83)は「被害者は老いを深めている。あまりに作業が遅い」と批判する。過去に独自の「増田雨域」を発表した気象学者の増田善信さん(99)は「多額の公金を突っ込んで何をしているのか。検証手法が妥当かも大いに疑問だ」と話している。(樋口浩二)

「黒い雨」の援護対象区域
 国は1976年、爆心地から広島市北西部にかけての長さ約19キロ、幅約11キロを援護対象区域と指定した。国は区域内で黒い雨を浴びた住民に無料で健康診断を実施。がんや白内障など国が定める11疾病と診断されれば、被爆者健康手帳が交付され、医療費が原則無料になるなどの援護策を受けられる。

(2023年3月11日朝刊掲載)

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