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社説・コラム

社説 マスク着用緩和 「平時」移行 緩みは禁物

 新型コロナウイルス対策を巡る政府の新指針で、13日からマスクの着脱が個人の判断に委ねられる。マスクを外せることで、日常が戻ってきたと実感する人もいるだろう。

 5月8日には新型コロナの感染症法上の位置付けが危険度の高い「2類相当」から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に変わる。入院勧告や感染者、濃厚接触者への外出自粛要請もなくなる。ウイルスと共存しながら社会経済活動を進める「ウィズコロナ」が本格化する。

 とはいえ、国内の1日当たりの新規感染者数はなお1万人弱いる。緩みは禁物だ。段階を踏みつつ、「平時」に移行していきたい。

 新指針は全員の着席が可能な新幹線や高速バスではマスクを外すことを容認するが、混雑した電車やバス内では着用を勧める。家族に感染者がいる場合や、医療機関、高齢者施設への訪問時なども推奨の対象だ。重症化リスクが高い人に着用が有効であることは改めて確認したい。

 事業者は対応の見直しを進めている。スーパーやコンビニなどの小売りや外食、交通機関、映画館などは多くが利用者に着用を求めない方向だ。客に安心感を持ってもらうため、従業員の着用は当面継続するという。

 プロ野球はマスク着用の上での声出し応援を認めている。きのうオープン戦のあったマツダスタジアムにも久々に応援歌が響いた。屋内競技のBリーグは同様の対応で、Jリーグはマスクなし声援まで認める方針。各業界で模索が続きそうだ。

 本紙「こちら編集局です」取材班の交流サイト(SNS)を使った調査では、「外したくない」と回答した人が約6割を占めた。4月1日から基本的に着用を求めない学校でも、着けたい人、外したい人の意思を妨げることはあってはならない。互いの気持ちを尊重したい。

 そもそも、コロナ感染の心配がなくなったわけではない。感染者数は減少傾向にあるが、ウイルスの感染力が強いことには変わりはなく、変異して流行を繰り返す可能性もある。

 再び感染拡大を招き、社会経済活動が制約されてしまう事態は何としても避けたい。政府、自治体は引き続き、感染抑制と医療体制の確保に力を尽くしてもらいたい。感染動向によってはマスク着用を呼びかけることもあり得よう。

 政府は5類移行に伴って医療費の公費支援を縮小し、医療提供体制を見直す。外来患者受け入れは季節性インフルエンザを診療する内科や小児科で担い、初診料を除いて現在無料の医療費は患者に自己負担を求める。

 負担額はインフルエンザ並みの水準というが、物価高で経済的に苦しむ人が治療を我慢することにつながりかねず、目配りが必要だ。5類移行までの2カ月間をウィズコロナへの準備期間と捉え、さまざまな事態を想定し備える必要がある。

 ウィズコロナには飲み薬やワクチンの継続的な開発も欠かせない。日本は出遅れたが、国民の命と健康を自前の科学技術で守れるよう急ぐべきだ。

 進学、就職、転勤と年度替わりは人の往来が活発になる。マスク緩和で初めて迎えるコロナ下の春である。一人一人がこの3年の経験を基に、マスクを携えて予防を心掛けたい。

(2023年3月12日朝刊掲載)

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