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社説・コラム

中国経済クラブ 講演から G7広島サミットの課題と展望 共同通信編集委員 太田昌克氏

核軍拡・核依存に傾く国際情勢の反転必要

 中国経済クラブ(苅田知英理事長)は15日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。5月に市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)を前に、共同通信編集委員の太田昌克氏が「G7広島サミットの課題と展望」と題して講演。核超大国ロシアのウクライナ侵攻が続く中、核軍拡と核依存に傾く国際情勢を反転させる必要性を説いた。要旨は次の通り。(小林可奈)

 31年前に広島で記者を始めた。よもや、こんなに緊迫した国際情勢が訪れるとは冷戦以降、夢にも思っていなかった。「戦間期」との言い方をする外交ジャーナリストやコラムニストも増えている。実際にウクライナでは始まっているが、より大きな戦争へ発展するとの指摘も聞かれるようになった。

 非常に暗たんたる国際情勢の中、岸田文雄首相がG7サミットを主催する。キューバ危機(1962年)以来の核リスクが顕在化しているということをまず強く申し上げたい。核使用を阻止し、世界大戦の戦間期ではなく、戦後を続けるにはどうしたらいいか。G7が知恵を出していかなければいけない。

 広島サミットで重要なのは核依存、核軍拡への傾斜が止まらない状況を、どう反転させるかだ。三つの核保有国が参加する中、慰霊碑に行くなど、被爆の実相に触れるのは大切だ。ただ、通り一遍に「核なき世界」と言うのではなく、このままでは危ないというメッセージをしっかり出すのが大事だ。アジアの国の代表として岸田氏は「核依存はいかん」としっかり述べる必要がある。

 外交は仲間内だけでなくアウトリーチも大切。グローバルサウス(新興国・途上国)との連携が求められる。グローバルサウスは、西側諸国をダブルスタンダード(二重基準)と見ている。「アフリカや東南アジアなどでも深刻な問題が起きてきたが、ここまで注目したか」「G7はロシアを巡っては本気を出しているが、各地の紛争では何をやってきたのか」との批判がある。

 過去の植民地支配の記憶もある中、日本のような国がG7の仲間と意思を通じ合い、グローバルサウスの話をしっかり聞き、ロシアを包囲していく世論形成をしなければならない。林芳正外相はインドであった20カ国・地域(G20)外相会合を欠席したが、G7議長国の岸田氏は各地に赴いて外交すべきだ。中国も大きなテーマ。台湾有事は不可避との考えもあるが、岸田氏が北京に行き、習近平国家主席と話せばいい。

 岸田氏はウクライナの首都キーウ(キエフ)にも行ってほしい。他国の首脳たちは既に訪問した。首脳が行く時はある程度、安全を保証するという暗黙のルールがロシア政府内でも働いているようだ。あとは岸田氏の腹一つ。キーウに行き、「ウクライナを絶対に被爆地にしない。長崎こそが最後の被爆地だ」とのメッセージを全世界に発信するのが、広島選出の岸田氏の歴史的な使命だ。

おおた・まさかつ
 早稲田大政治経済学部卒、政策研究大学院大博士課程修了。米メリーランド大でフルブライト研究フェロー。共同通信入社後、広島支局、政治部、ワシントン支局などを経て2009年から現職。富山県出身。54歳。

(2023年3月16日朝刊掲載)

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