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連載・特集

廣島 広島 ひろしま 第2部 もう一つの姿 <9> 昭和産業博覧会

西練兵場使い物産展示

 軍都広島の中心であった広島城の南東には西練兵場と呼ばれる場所があった。その敷地は変遷はあるが、現在の県庁、市民病院、ひろしま美術館、市民球場、広島そごうなどがすっぽり入る広大なものである。

 通常そこでは軍事訓練が行われていたものの、博覧会や物産共進会などの会場としてもしばしば利用された。イベントには軍事的な色彩が強いものも少なくなかったが、市民にとっては楽しみの一つだった。例えば毎年行われた招魂祭は、当時では最大の娯楽になっていたのである。

 数々のイベントの中で、その華やかさが異彩を放ったのが、昭和四(一九二九)年に開催された昭和産業博覧会である。会期は三月二十日から五月十三日までの五十五日間。第一会場が西練兵場、第二会場が比治山公園、第三会場が元宇品に設けられた。全国の物産を網羅して展示し、日本産業の現状を紹介するもので、広島市の産業界の活性化・観光客誘致などを目的とした。

 博覧会の開催に合わせて絵はがきも発行された。そこには郷土館、農水館、貿易館、化学工業館、機械館、北海道館、特設館などの様子が写っている。

 ここに掲載した写真は特設館街の光景で、恐らく市民球場あたりを撮影している。仮設とは思えない立派な建物が並んでいるが、これは会場の一部にすぎない。西練兵場のほぼ全域にこのようなパビリオンが並んでいた。また、子供用の遊具を備えた子供の国や音楽堂なども造られている。

 絵はがきに写っている人々には、まだ戦争の影は感じられない。華やかな博覧会を心から楽しんでいる様子がうかがえる。しかし二年後の昭和六(一九三一)年、満州事変が勃発(ぼっぱつ)し、日本は戦時色に染まることになる。(広島城学芸員・本田美和子)

(2008年8月26日朝刊掲載)

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