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連載・特集

[ヒロシマの声 NO NUKES NO WAR] 人類なき星にするのか シンガー・ソングライター ジャクソン・ブラウンさん(74) =米国在住

核問題 今一番の懸念

≪米国を代表するシンガー・ソングライターの一人。社会派として知られ、デビュー50年を過ぎた今なお、海洋汚染や人種間の分断に警鐘を鳴らす楽曲を次々にリリースしている。6年ぶりの日本ツアーで、22日にある広島公演を前に、核問題を「今一番の懸念」に挙げる。被爆地の声に重なる反核の思いを訴える。≫

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 今回のライブでは、初期から最新の楽曲まで織り交ぜるつもりだ。1曲目には「ビフォー・ザ・デリュージ(洪水の前に)」(1974年)を考えている。原発をテーマにした歌だ。公民権や人権を巡る闘争が盛んな60年代に育った私は若い頃、社会は変わると信じてきた。残念ながら前進していないものもある。その一つが核を巡る問題だ。

 核兵器の開発競争は終わっていないし、原発の問題は何ら解決していない。核技術の恩恵を受ける人々は「地球を救うクリーンなエネルギー」と主張するが、廃棄物の処理法を全く見いだせていない。原発を動かすためにウラン採掘が進む地域は汚染され、壊滅的な打撃を受けている。

 さらに、このウクライナ危機だ。ロシアのプーチン大統領は軍事侵攻した当初から、いつでも核兵器を使えると、世界を脅している。欧米諸国が侵攻に反対し、立ち上がろうとするほど、近視眼的で狂ったアイデアも出てくる。限定的な核戦争ができる、と。とても心配だ。

 広島、長崎は人間に対して核兵器が使われた場所だ。私自身、広島を訪れるたびに心を動かされる。原爆資料館を初めて見学した時には、米国が勝利し、第2次世界大戦を終結に導くという名目で、罪のない人々があれだけ殺されたと知り、打ちのめされた。

 帝国主義は要らない。必要なのは、人類の未来を担えるリーダーだ。核兵器は二度と使われてはいけないし、核物質の生産は段階的に止めるべきだ。でないと、地球は人類のいない惑星になってしまう。

 環境問題も深刻だ。例えば、海にはプラスチックがあふれている。深海から資源を採掘し、生態系を破壊している人もいる。広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、人類が直面する難題に取り組むのだろう。それならば科学者の声にも耳を傾け、今なすべきことを進めてほしい。(編集委員・田中美千子)

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