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ヒロシマの物語 子どもへ 被災地の少女 絆を学ぶ/アジアへ「おりづるの旅」

 平和な世界を子どもたちに―。そんな被爆地広島の願いが込められた小説や翻訳絵本ができた。東日本大震災から3年を迎えるのを前に、広島市中区の作家は、被災した少女を主人公に人と人とのつながりの大切さを訴える子ども向けの本を書き上げた。中区のNPO法人は、被爆10年後に白血病で亡くなり、原爆の子の像のモデルとなった少女、佐々木禎子さんを描いた絵本「おりづるの旅」を新たにアジア3カ国語に訳した。(増田咲子)

被災地の少女 絆を学ぶ

児童作家が小説

 絵本「原爆の火」などで知られる児童文学・絵本作家の毛利まさみちさん(67)が書いた小説「青い空がつながった」は、震災で被災し、広島に家族で移り住んだ少女を描いている。

 宮城県石巻市の小学2年生だった麻美(まみ)が、2011年3月11日、学校の教室にいた時、激しい揺れに襲われる。津波で父の勤めていた工場は壊滅、家族で広島に引っ越す―との設定だ。

 転居してきた被爆地広島で、さまざまな出会いがある。津波で父を亡くし、福島第1原発事故の影響で広島で暮らす少年、1945年8月6日の原爆で家族8人が亡くなった女性…。原爆資料館では、被爆して焼け野原になった広島が、人々の努力で復興した事実を知る。

 家族を切り裂いてしまう震災や戦争、震災の時に受けた世界中からの支援などに思いをはせる麻美。「地震も津波も、戦争も原子爆弾も、あんなものみんな、なければいい」。家族や友達がつながり合った平和な世界を象徴する「青い空」の下、各国の人々が手をつなぐことの大切さに気付いていく。

 熊本市出身の毛利さんは、家の近所に引っ越してきた少女や、その家族への取材を重ね、創作も織り交ぜて仕上げた。「震災を風化させてはいけないとの思いから、原爆も含めて子どもの視点で書いた。世界の人が心からつながり、戦争のない平和な社会を築いてほしい」と願っている。

 本はA5判、126ページ。新日本出版社(東京)。税抜き1400円。

アジアへ「おりづるの旅」

NPO法人が3ヵ国語翻訳

 「おりづるの旅」(作・うみのしほ、絵・狩野富貴子)は、国際協力に取り組むNPO法人「ANT―Hiroshima」(アント)が、カンボジア、ミャンマー、モンゴル各国の公用語に翻訳した。

 絵本は、A4判変型、40ページ。2003年にPHP研究所(京都市)が出版した。禎子さんの死後、小学校時代の同級生が「原爆で亡くなった全ての子どもたちの慰霊碑を建てよう」と奔走、禎子さんが回復の願いを託した折り鶴が平和の象徴として世界に広がっていくストーリーだ。モンゴルでも禎子さんを歌った曲ができ、親しまれていることも紹介されている。

 今回の翻訳は、平和構築や原爆についての研修を受けるため12年に広島を訪れた3カ国の大学生や非政府組織(NGO)職員の協力を得た。禎子さんの話や、アントの活動内容を聞いて心を動かされ、ボランティアを買って出たという。

 アントは、3人が手掛けた訳文を日本語版の絵本に貼って各20冊を完成させ、各国に届けた。カンボジアは内戦を経験し、ミャンマーは軍政から民政に移行したばかり。渡部朋子理事長(60)は「子どもたちは微力かもしれないが、無力ではない。自分の国を平和にするにはどうすればいいのか、自分で考え、行動するきっかけにしてほしい」と話している。

 アントはこれまでに、「おりづるの旅」を英語、ロシア語、フランス語など13の言語に翻訳している。近くアラビア語と、フィリピン中部などで使われているビサヤ語版も完成する。

(2014年2月17日朝刊掲載)

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