天風録 『ゲンビの「ビフォーアフター」』
23年3月19日
ある出来事の前と後で変化を見るテレビの番組やコマーシャルがある。古い家がよみがえったり汚れが落ちたりと驚かされる。開館から30年以上たつ広島市現代美術館もきのうリニューアルオープン。少し改まった空間でアートに向き合える▲「ゲンビ」が改修のために休館した約2年3カ月。新型コロナで息苦しい生活を強いられた期間と重なる。始まった「Before/After」展は改修の前と後のみならず、世の中の変化も映しているに違いない▲コロナ禍や自然災害があった。ロシアのウクライナ侵攻も1年以上続く。世界は大きく変わってしまった。ビフォーよりアフターがよいと考えがちだが本当だろうか―。岡本太郎らの歴史的な作品をはじめ、若手アーティストの新作に考えさせられる▲平和発信を担う美術館だけに核を告発する作品も並ぶ。原爆ドームとなる前は優美だった建物を、地元出身の南薫造は「元安川」に描いていた。ほかに原発事故の後、家に戻れぬ人の思いを伝える映像表現などがある▲希望を抱かせる場が新ゲンビにできた。ワークショップに使う空間で、子どもたちの声が弾んでいた。理想の世界を描き、発信してくれるだろう。
(2023年3月19日朝刊掲載)
(2023年3月19日朝刊掲載)