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社説・コラム

社説 広島サミット2ヵ月前 「成功」と胸張るために

 あと2カ月に迫った。5月19日から3日間、広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)へ向けた準備が進み、歓迎ムードは高まるばかりだ。

 広島の魅力を世界に発信する意気込みや、さまざまな波及効果への期待はよく分かる。ただ開催自体を喜ぶ段階はとうに過ぎていよう。サミットは祝祭色に満ちたイベントというより、世界に安定をもたらすための真剣外交の舞台である。そのことをあらためて頭に置きたい。

 ロシアのウクライナ侵攻から1年余り、いまだ停戦の道筋は見えない。台湾海峡を巡る中国の軍事的な脅威や北朝鮮の核・ミサイル開発の加速も懸念される。冷戦終結後、世界が経験しなかった緊迫した状況で迎えるサミットであり、議長国日本の責任は重い。とりわけ岸田文雄首相に求めたいのが被爆国のリーダーとしての自覚である。

 ロシアの暴挙への対応がサミットの大きな焦点となるのは間違いないが、ウクライナへの軍事支援を含めたG7の結束を確認するだけなら被爆地開催の意味はない。なぜ広島で開くのかという原点を思い返したい。

 国連安保理の常任理事国である大国ロシアが核使用をちらつかせ、威嚇する―。1962年のキューバ危機以来とも言える核リスクの顕在化を踏まえ、岸田首相は昨年5月、「核兵器の惨禍を人類が二度と起こさないという誓いを示す」と広島開催の理由を述べている。その思いを、このサミットで目に見える形で具体化すべきだろう。

 核を絶対に使わせないと、ロシアに強い意思表示をするためにも米、英、仏の核保有3カ国を含む首脳たちは原爆の惨禍を深く知るべきだ。平和記念公園訪問と原爆資料館の見学、さらには被爆者との対面の可否が水面下で調整されているとみられる。ぜひ実現させ、できるだけ長い時間を充ててほしい。

 岸田首相は「核兵器のない世界を目指す」と、言葉では繰り返してきた。ただ現実問題として一日も早い核兵器廃絶を望む被爆地と、日本を含むG7の姿勢には落差がある。中国や北朝鮮の核軍拡も看過できない安全保障環境の中で「核には核」で対抗する不毛な発想に、より傾斜する空気もなくはない。

 核の脅威を伝える被爆地で、核抑止力の重要性をアピールすることだけは、絶対に見たくない。速やかな廃絶への合意が難しいとすれば、最低でも核拡散防止条約(NPT)再検討会議の決裂に象徴される核軍縮後退の流れに歯止めをかけ、核兵器には依存しない姿勢をG7の総意として示すべきだ。

 広島サミットのテーマはほかにも山積する。パキスタン大洪水などに表れた気候変動問題も待ったなしだ。命が失われる痛みを肌で感じてきた平和都市にふさわしい議論に期待したい。そのためにも利害がもとより一致するG7で固まらず、より幅広い枠組みで協調していく姿勢も必要だろう。このサミットに声を届けようと市民レベルではさまざまな取り組みが始まっている。その意味もまた重い。

 広島市や周辺では、交通規制をはじめ日常生活への影響が出ることも分かってきた。「広島サミットは成功した」と住民自身が胸を張り、長く語り継げる成果が得られてこそ、求められる不便も報いられるはずだ。

(2023年3月19日朝刊掲載)

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