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社説・コラム

社説 日韓首脳会談 対話重ね関係立て直せ

 戦後最悪とまで評されていた韓国との関係を立て直していく転機にすべきである。

 岸田文雄首相はおととい、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談した。11年余り途絶えていた相互訪問による「シャトル外交」の再開で一致したのをはじめ、関係正常化で合意した。泥沼状態から抜け出す一歩になったことは、間違いあるまい。

 ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の挑発など、両国の周辺では緊張が高まっている。地域の平和と安定を確保するには、連携が欠かせない。二度と対話を閉ざすことがないよう、肝に銘じなければならない。

 前進が幾つもあった首脳会談だった。約5年ぶりとなる外務・防衛当局による「安全保障対話」再開が決まった。韓国は、前政権が一方的に破棄を通告した、防衛関連の機密情報共有を可能にする軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の正常化を宣言した。逆に日本は、韓国への半導体関連材料の輸出規制強化措置の解除に踏み切る。

 関係改善へと動き出した背景の一つに、昨年5月の尹氏の大統領就任がある。幼い頃、一橋大に通っていた経済学者の父を訪ねて日本に来たことがあるという。朝鮮半島を植民地支配していた戦時中とは違う日本人の姿に直接触れたことが、奏功しているのだろうか。

 尹氏は、冷え切っていた両国関係の雪解けに心を砕いた。とりわけ、前政権でこじれた元徴用工の問題で、日本に配慮した解決策を今年示した。岸田政権に評価され、今回の首脳会談にもつながった。

 不安も残る。韓国国内では、この解決策への「反対」が半数を占めると聞く。両国政府がいったん合意したものの、その後に韓国の新政権にひっくり返された「慰安婦」の二の舞いにならぬよう、日本政府も韓国政府をサポートする必要があろう。

 関係改善の背景には、国際環境もあった。ロシアによるウクライナ侵攻や、核兵器使用をちらつかせての脅しは、国際社会に衝撃を与えた。

 北東アジアでは、中国が目の色を変えて核兵器を含む軍備増強に突き進んでいる。中国と北朝鮮の横暴を食い止めるため、日韓はもちろん、米国を含めた国際連携が不可欠だ。歴史認識を巡る韓国との溝が深いからといって、対話を避け、協力を拒むのは賢明な選択ではない。

 むろん、韓国政府も関係悪化の責任は免れない。歴代政権は支持率が下がると、反日機運をあおって国民の不平不満をそらす手法に走ることが多かった。

 シャトル外交の断絶も、そのせいだった。2012年に現職の大統領で初めて、当時の李明博(イ・ミョンバク)氏が島根県の竹島(韓国名・独島(トクト))に上陸した。今に続く関係悪化の発端となった。

 とはいえ、日本としては対話重視の姿勢を貫きたい。たとえ日韓関係が韓国国内で政争の具とされることがあっても緊密な対話を重ねられるよう、議員を含め努力を続けねばならない。

 経済人や若者をはじめ幅広い分野での民間交流を太くすることも不可欠だ。音楽や映画、文学といった大衆文化に加え、特色ある食など相手国の魅力にはまっている人は多い。両国政府が仲たがいする事態に陥っても、微動だにしない確固たるパイプを築いておきたい。

(2023年3月18日朝刊掲載)

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