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社説・コラム

社説 日印首脳会談 G20との連携欠かせぬ

 岸田文雄首相がきのうインドを訪問し、モディ首相と会談した。先進7カ国(G7)の議長国として、5月の首脳会議(広島サミット)に招待し、モディ氏が出席することで合意した。国際協調に向けて、協力を取り付けたのは評価できる。

 ロシアのウクライナ侵攻は2年目に入り、長期化が懸念される。中国は覇権主義的な行動を強めている。そんな折、中ロが入る20カ国・地域(G20)の議長国をインドが務める。G7が掲げる法の支配に基づく国際秩序の堅持に、連携が欠かせない存在として台頭してきた。

 インドは人口で中国を抜き世界最多となる見通しで、経済でも国内総生産(GDP)は世界5位に急成長した。何より「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国のリーダー役を自負し、国際社会で発言力を増す。主に南半球にあるアフリカや南米、アジアの国々で、先進国と対置させた勢力である。

 岸田氏は、グローバルサウスを強く意識したのだろう。首脳会談では、途上国が国際支援を求めるエネルギーや食料供給の分野で、G7とG20が緊密に連携すると確認した。滞在中の講演で、「自由で開かれたインド太平洋」構想の新計画を発表し、インフラ整備の政府開発援助(ODA)拡充を打ち出して途上国支援を前面に出した。

 連携を呼びかけにとどめず、実行する努力が必要だ。ウクライナ侵攻で、G7が結束を強めるだけではロシアを翻意させられない現実を直視しなければならない。

 グローバルサウスは、ロシアへの経済制裁を強める西側諸国と一線を画す国が少なくない。ロシアにエネルギー、食料や肥料で依存し、国連総会での非難決議を支持しない国がある。その代表格がインドであり、冷戦の経緯から友好関係を保ち、侵攻後も原油や天然ガスを輸入する。欧米にも中ロにもくみさず、自国の経済と安全保障を重視した独自の外交戦略をとる。

 ロシアの国際法違反は明白にもかかわらず、なぜなのか。西側諸国とは異なる価値観や立場をまず理解すべきだろう。

 もともとグローバルサウスは欧米列強の植民地支配を受けた歴史を踏まえ、先進国の主導する国際秩序に不満や不信感があるのを忘れてはならない。

 気候変動や食料危機などは先進国の行動のせいで貧困層の多い低・中所得国ほど打撃を受けると主張してきた。数ある紛争の中で欧州のウクライナには手厚く支援する西側の姿勢を「二重基準」と批判する声も強い。

 岸田氏には、それぞれの国が何を求めているかを丁寧に聞き、多様な声を尊重する外交のリーダーシップを求めたい。米国が唱える「民主主義と専制主義の闘い」といった二元論では、さらなる国際社会の分断と対立を招きかねない。G7サミットにモディ氏を招く意味を、欧米各国と共有すべきだ。

 インドが核兵器保有国という面からも、広島サミットに招待する意義がある。核拡散防止条約(NPT)に加盟せず、核弾頭をじわじわ増やしてきた。隣国の中国、パキスタンも保有国で、国境紛争の続く南アジアは依然としてリスクが高い。

 「強いインド」を志向してきたモディ氏に、核被害の実態をしっかり伝えたい。

(2023年3月21日朝刊掲載)

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