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連載・特集

廣島 広島 ひろしま 第3部 戦時下の街で <7> 広島大理論研

最先端の自然科学研究

 今年のノーベル賞で話題となった理論物理学を研究する施設が、かつて「広島大学理論物理学研究所」(通称・理論研)として存在した。理論研は竹原市にあったが、さかのぼると戦時中の広島文理科大学付置研究所として、現在の広島市中区東千田町に設置されたのが始まりである。

 理論研は昭和十九(一九四四)年、文理科大学理論物理学研究室の三村剛昂(よしたか)教授たちを中心に設立された。物理学の基礎理論である量子力学と相対性理論を統合して考えるという、現在では最先端の分野を研究していた。

 彼らはこれを波動幾何学と称し、その研究は国内外に反響を呼んだ。三村教授のグループは広島学派と呼ばれるようになり、専用の研究施設として理論研が設立されたのである。

 第二次世界大戦まっただ中のこのころ、全国の大学では戦争に役立つ研究をするため多くの研究所が作られていた。そのような中、純粋に自然科学を共同研究する研究所が、理論系のものとして初めて広島に設立されたのは注目に値する。

 原爆のために理論研は壊滅状態となった。尾道市向島の文理科大付属臨海実験所に間借りしていたが、三村氏の出身地である竹原市の有志の努力により、昭和二十三(一九四八)年に竹原市へ移転した。

 理論研はその後、日本の相対論研究のセンター的役割として研究を続け、平成二(一九九〇)年、京都大学基礎物理学研究所と合併した。波動幾何学は完成しなかったが、この流れをくむ研究が世界中で行われている。その先駆的な研究機関として理論研は存在していたのである。

 合併後の平成三(一九九一)年、理論研には相対論・宇宙論に関する長年の功績により、アインシュタインの友人の研究者にちなんだ、世界的なマルセル・グロスマン賞が贈られた。(広島市こども文化科学館学芸員・村上聡)

(2008年11月18日朝刊掲載)

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