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社説・コラム

『記者縦横』 先人の歩み 心に刻んで

■ヒロシマ平和メディアセンター 森田裕美

 私は被爆者ではありませんが…。反核を説くとき必ずこう前置きしたのは被爆者への敬意に加え、体験のない人間がヒロシマを受け継ぐ実践を背中で見せてくれていたからに違いない。広島の反核平和運動を支えた宮崎安男さん(2007年死去)のことをこのところ度々考える。宮崎さんなら核危機とも言われる今の世をどう断じるだろうと。

 広島県原水禁の事務局長や代表委員を務め、被爆者相談員として被爆者健康手帳申請に必要な証人捜しに奔走するなど被爆者援護にも尽くした人。労働運動を通じて被爆者の壮絶な人生に触れたのを原点に、核を巡る世界情勢に鋭い目を向け、行動で示した。そんな先達の姿に、今どれほどの人が関心を向けていよう。

 ことしに入り本紙の平和面に新コーナーを設けた。「私の道しるべ ヒロシマの先人たち」。平和活動などに携わる人たちに自らの道しるべとなった人物について聞く企画である。敗戦から78年。被爆地の運動や思想を支えた多くが世を去りその精神を受け継いだ人も少なくなっている。歳月を経て忘却の中にある大切な営みもある。先達の歩みをいま一度思い起こし、胸に刻む―。それが趣旨だ。

 取材を通して感じるのは被爆地の戦後を織りなす人々の息遣い。遠く隔てられた過去ではなく、至近距離に見えてくる。「被爆体験はなくとも自分の問題としてとらえ、近づくことはできる」。宮崎さんが繰り返し語ってくれた継承のヒントを心でつぶやいている。

(2023年3月24日朝刊掲載)

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