×

社説・コラム

社説 広島市長選告示 次世代につなぐ論戦を

 任期満了に伴う広島市長選がきのう告示された。中国地方最大の都市の将来像をどう描き、核兵器廃絶に向けたリーダーシップをいかに発揮するのかが問われる選挙である。

 無所属の現職松井一実氏に、無所属の大山宏氏と共産党の高見篤己氏の新人2人が挑む。一時は取り沙汰された無投票こそ回避されたものの、争点に乏しいとして選挙戦が低調に終わると危ぶむ声もある。

 しかし、有権者が耳を傾けるべきテーマは山盛りだ。4月9日の投開票日までそれぞれの訴えに耳を澄まし、かじ取り役にふさわしい政見を、私たち有権者は見極めたい。

 4選を目指す松井氏は、骨格編成とした2023年度の当初予算に、JR広島駅南口広場の再整備やサッカースタジアムの建設費用を盛り込んだ。「ハードはほぼ見えてきた」と一定の仕上げを口にしている。

 とすると、次は何に取り組むのか。明確なビジョンを示す義務がある。過去の実績の強調に終始しがちな現職にとって、とりわけ意識すべき点であろう。

 これまでの課題を検証することも欠かせない。一例が市立中央図書館の移転問題だ。

 関連予算案は先日、市議会で可決されたが、予算案から削除する修正案に47人中19人が賛成した。市民の反対は根強く、解決済みとは言い難い。批判票につながる可能性もある。

 すでに人口減少に転じている市が、時代の流れに対応しながら広島都市圏の中枢性をどう高めていくかも論点である。

 市は近隣県との連携、交流を深める「200万人広島都市圏構想」を掲げる。ならば近隣各都市と積極的に力を合わせる姿勢が欠かせない。

 例えば、近隣各都市とを結ぶ道路ネットワークをどう充実させていくのか。

 西日本豪雨で広島呉道路は実際に寸断された。片側1車線では脆弱(ぜいじゃく)すぎるという指摘があったのに、市は2車線化を呉市の問題としか捉えていなかったのではないか。当事者意識が弱ければ、構想も実現が程遠いものになりかねない。

 都市圏拡大で先を行く福岡市は周辺から人が流れ込んで人口は160万人を超えている。かつては10万人ほどだった、広島市との差が40万人以上に拡大してしまったのはなぜなのか。市には具体的な巻き返し策を示してもらいたい。

 5月には広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)も開かれる。被爆地ヒロシマのリーダーである市長が、核兵器廃絶のためにどんなメッセージを発信し、アピールするのか。選挙戦を通じ、立候補した3人は具体的な言葉でその思いを述べることが必要だ。

 広島湾岸の製造業は設備の老朽化に直面している。市の主力である自動車関連産業は国際分業が進み、将来にわたって地元立地が保障されているわけでもなかろう。持続可能なまちづくりへ向けた産業振興策は欠かせない。熱を帯びた論戦がもっと聞きたい。日鉄撤退という荒波を受けた呉市の事例は人ごとではない。

 立候補した3人の訴えをつぶさに確かめ、1票を託そう。それが次世代に向け、まちづくりの一翼を担うことにつながると自覚したい。

(2023年3月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ