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社説・コラム

社説 広島サミット 8ヵ国招待 核廃絶へ共に歩めるか

 岸田文雄首相のインド、ウクライナ訪問で、5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の「かたち」が見えてきた。

 首相はインドで8カ国の首脳を招待すると表明し、拡大会合で「国際社会が直面するさまざまな課題への対応を中心に議論する」と述べた。ウクライナのゼレンスキー大統領はオンラインでの参加が決まった。

 8カ国は、オーストラリア、インド、インドネシア、韓国、クック諸島、コモロ、ブラジル、ベトナムである。オーストラリア、韓国は日本と同じ米国の同盟国であり、インドは20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の議長国。そのほかは中東を除く各地域の代表である。

 顔ぶれからは「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国を重視する姿勢がうかがえる。ウクライナに侵攻するロシア、軍備を増強する中国への対応が重要なテーマとなる。「中ロに対抗する米欧日」という単純な構図に陥らないよう、協力を引き寄せる狙いがある。

 新興国・途上国の多くはロシアにエネルギーや肥料などを依存する。ウクライナ侵攻を「国際法違反」としながら、経済制裁には参加せず、中立的な立場で独自の外交を展開する。その代表格として存在感を増しているのがインドだ。

 一方で戦闘の早期終結を願っているのも確かである。ウクライナを支援するG7は軍事面を中心とした結束を誇示するだけではなく、招待国とともにロシアへ撤退と停戦を呼びかけることが求められよう。

 中国が海洋進出を強め、台湾有事の可能性も指摘される中、「自由で開かれたインド太平洋」の実現にとっても招待国は地理的に重要な存在である。

 首相は1月、米国での講演で「正しいと信じる道を歩んでいても、グローバルサウスから背を向けられると、われわれ自身がマイノリティーになる」と危機感を示している。

 グローバルサウスには、先進国主導のルール形成などに反発や不満がある。それを踏まえた上で、力ではなく法に基づく国際秩序を共有する機会としなければならない。多様な価値観を踏まえた指導力が、アジア唯一のG7である日本に問われる局面である。

 拡大会合では当然、「核兵器なき世界」がテーマになろう。立場の異なる招待国を交えた議論の意味は大きい。  インドは核拡散防止条約(NPT)に加盟していない核保有国である。一方、インドネシア、クック諸島、コモロ、ブラジル、ベトナムは核兵器禁止条約の批准・署名国だ。

 オーストラリア、韓国は米国の「核の傘」の下にいる。そして旧ソ連崩壊後に核兵器を放棄したウクライナは、ロシアの核の脅威にさらされる。

 そろって核被害の実態に触れる機会は貴重だ。ただインドはNPT加盟の保有国が負う核軍縮義務を課せられていない。それが合意形成にマイナスの影響を与えかねない懸念がある。

 仮に核抑止力を肯定し、廃絶への道筋が見通せない議論にとどまれば、サミットを広島で開いた意義を失う。首相は繰り返し、被爆国のリーダーとして核保有国と非保有国の「橋渡し役」を務めると述べてきた。どう果たすか問われる。

(2023年3月26日朝刊掲載)

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