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社説・コラム

天風録 『凶暴な、くまのプーさん』

 丸っこい体形に優しそうな目が愛らしい。ディズニーのキャラクターで知られる「くまのプーさん」である。原作者のミルンが、ぬいぐるみが躍動する物語を書いたのは、わが子を喜ばすのが狙いだったそうだ▲子どもに大人気なのに、中国の習近平国家主席は、自分に体形が似ているのが気に食わないらしい。親しみやすさより、こわもての威厳を重んじているからか。5年前、ディズニー映画「プーと大人になった僕」の国内上映を認めなかったほど徹底している。あまりに大人げない▲今回のドタバタ劇も、その延長線上なのだろう。香港での「くまのプーさん」上映が直前に中止となった。当局の許可を得て30以上の映画館で上映するはずが、突然の方針転換。中央の意向が背後に透けて見える▲今回の映画はメルヘンタッチのディズニー作品とは程遠い。英国のホラー映画で、仲良しの少年に捨てられたと感じたプーさんが凶暴化して、人間を襲う話だ。子ども向けとは言い難い▲チベットや新疆ウイグル、そして香港…。自由を求めて声を上げた人には、凶暴な振る舞いに見える。そんな習体制の告発がホラーの衣に隠された映画の狙いだったのかもしれない。

(2023年3月25日朝刊掲載)

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