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社説・コラム

天風録 『ベラルーシの鐘』

 長崎市の浦上天主堂は原爆で全壊したが、鐘一つがほぼ無傷で残った。雲南市三刀屋町出身で、被爆者の救護に尽くした永井隆博士の著作の題材になった「長崎の鐘」。その複製が旧ソ連の独裁国家ベラルーシにある▲核被害に対する日本との連帯を示す存在だ。首都ミンスクの聖シモン・聖エレーナ教会内に鐘楼が立つ。1986年のチェルノブイリ原発事故を受けカトリック長崎大司教区が送った資金が元手となった。鐘の下には広島、長崎、福島の土も納める▲ベラルーシには事故で飛び散った放射性物質の6割が南風に乗って降り注いだとされ、多くの被害を生んだ。後始末を指揮する強いリーダーとして誕生したのがルカシェンコ大統領だった▲圧政は29年にも及ぶ。核の悲惨を国民は知るのに憲法を変えロシアの戦術核兵器の配備を受け入れる。ウクライナ侵攻の拠点にも。その目にはプーチン大統領しか見えていないのだろう▲〈人類よ、戦争を計画してくれるな。原子爆弾というものがあるが故に、戦争は人類の自殺行為にしかならないのだ〉。あの名著に永井博士が記した言葉と平和を願う鐘の音は国際社会から非難を浴び続ける2人の耳には届かぬのか。

(2023年3月28日朝刊掲載)

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