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社説・コラム

社説 ベラルーシ核配備 負の連鎖 食い止めねば

 ロシアのプーチン大統領が、同盟国であるベラルーシに戦術核兵器を配備すると表明した。新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止に続き、核による威嚇を一段と先鋭化させる暴挙で、容認できない。

 ベラルーシは旧ソ連の崩壊後に独立し、非核化している。戦略核の配備が核拡散防止条約(NPT)の精神に反するのは明らかである。被爆地では「核使用への階段を上っているかのよう」と危機感が広がっている。即刻、撤回すべきだ。

 昨年2月に始まったウクライナ侵攻で、ベラルーシはロシアの後方支援を続けてきた。侵攻直後に憲法を改正し、「非核地帯」の文言を削除。ロシア軍の核兵器を配備できるようにしていたという。ロシアにとっては米欧をけん制する、一つの「切り札」だったのだろう。

 プーチン氏は「米国と同じことをしたまでだ」と主張した。確かに米国は冷戦終結後も北大西洋条約機構(NATO)加盟国に計約150発の戦術核を配備している。一方でロシアは欧州寄りの西部国境付近に約1800発を備えるとされ、ベラルーシに持ち込む軍事的有効性はないとの見方も強い。核使用をためらわぬ姿勢を見せつけることで、ウクライナへの軍事支援を鈍らせるのが狙いだろう。

 とはいえ、既に核を搭載できる爆撃機や弾道ミサイルシステム「イスカンデル」を提供し、7月1日までに戦術核の保管施設を完成させるという。核兵器を譲渡するわけではないのでNPTに反しないと強弁しているが、そんな理屈は通らない。

 さらには、英国がウクライナに劣化ウラン弾を供与すると決めたことへの対抗措置とも強調した。これも理由になっていない。プーチン氏は「核成分」を備えた兵器と英国を非難したが、自国で大量に保有し、過去に使用したこともある自らに返ってくると自覚すべきだ。

 劣化ウラン弾は、破壊力が増すだけでなく、微粒子となったウランが拡散して人体に入り、体内被曝(ひばく)を引き起こすとの指摘もある。米欧は「ありふれた兵器」とするが、湾岸戦争やイラク戦争で米英が用い、住民や兵士が健康被害に苦しんでいるとの報告があるのを忘れてはならない。放射能兵器とも呼ばれ、被爆地にとっては核兵器とともに禁止すべき非人道兵器だ。

 ベラルーシへの核配備が、周辺でどんな事態をもたらすかも考えたい。1991年末の旧ソ連崩壊後、独立したベラルーシとウクライナ、カザフスタンは核保有を放棄。旧ソ連軍が各国に残した核兵器は90年代半ばまでにロシアに引き取られた。ロシアが一元管理することで核拡散を回避するためだ。

 非核化した3カ国の安全を、核保有国の米国、英国、ロシアが保障したのが94年のブダペスト覚書だった。その冷戦終結の果実はロシアが2014年にウクライナ南部クリミア半島を併合し、破られた。今回の動きはさらに踏みにじる愚行だ。

 安全の担保が揺らぎ、非核三原則を持つウクライナでも核兵器を手にして対抗しようとの論調が強まるかもしれない。負の連鎖を食い止めなければ、核に依存した冷戦時代の危険な状態に再び陥る恐れがある。時計の針を戻すことが、絶対にあってはならない。

(2023年3月28日朝刊掲載)

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