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艦載機 移転5年 <上> 広がる騒音

 米軍岩国基地(岩国市)が空母艦載機の移転完了で極東最大級の航空基地になり、30日で5年になる。厚木基地(神奈川県)から艦載機約60機が移り、所属機は2倍の約120機になった。艦載機移転を巡る現状と課題を報告する。(有岡英俊)

空も海も 拠点化加速 中国けん制 訓練活発に

 「ゴー」という地鳴りのような音が十数秒間、上空を覆った。3月中旬の廿日市市宮島町の弥山山頂。岩国基地から飛び立った米軍機のジェット音とみられる。機影は見えない。登山で訪れた庄原市の新川康正さん(69)は「宮島にまでこんなに大きな音が届くとは」と驚いた。

遮られる会話

 岩国基地から北東に約9キロ離れた宮島でも艦載機の移転後に騒音が増えた。「騒がしい街頭」に当たる70デシベル以上を2022年度は2月末までで646回測定し、移転前の17年度の3倍になった。21年度は914回に上り、4倍に達した。

 「宮島は人々が平和を願う祈りの島でもある。できることなら騒音はなくなってほしい」。1200年以上前に空海が弥山に開いた大聖院の吉田大裕副住職(32)は思いを語る。参拝客に境内を案内していると、会話を遮られることもある。「国防のための影響だとも思うが」と複雑な心中を明かす。

 宮島など岩国基地周辺だけでなく、広島、島根両県にまたがる訓練空域でも騒音が急増した。緊迫する東アジアなどの国際情勢を受け、岩国基地を拠点とする米軍機の動きは活発になっている。

 ペロシ米下院議長が台湾を訪れた22年8月、大規模な軍事演習を繰り広げた中国軍に対抗し、艦載機は空母ロナルド・レーガンと台湾南東の海域で警戒に当たった。先立つ6月には、空軍ステルス戦闘機のF35AとF22ラプターの計30機が基地に相次いで飛来した。約1カ月間にわたり訓練し、中国をけん制する作戦にも加わった。

 岩国基地を拠点とした米軍の動きが強まり、騒音が増える懸念もある。宮島町の住民組織・宮島町総代会の正木文雄会長(73)は、日米の抑止力を強化する動きと一定の理解をしつつ「うるさい島だと思われたら観光の町にとって死活問題だ」と受け止める。

高まる重要性

 在日米軍基地で唯一、滑走路と港湾施設が近接する岩国基地では、艦船や運搬船の寄港も21年から急激に増えた。岩国市は22年に米海軍を中心に延べ17隻の入港を確認。23年2月には米海軍のドック型輸送揚陸艦グリーン・ベイが初めて入り、海上自衛隊呉基地(呉市)を母港とする輸送艦おおすみと岩国基地沖の広島湾で初めて共同訓練した。中国が海洋進出を強めるのに対し、日米が南西諸島の防衛を強める連携の一環とみられる。

 「当初は厚木の騒音軽減という政治的判断で艦載機が移ってきた岩国基地は、中国の軍拡を背景に重要性が高まっている」と指摘するのは明海大の小谷哲男教授(安全保障論)。相次ぐ外来機や艦船の岩国入りについて「戦力を分散する戦略を取る米軍にとって、中国からの立地や港を備えた機能から岩国は使いやすい」と分析し、「有事の際は日米だけで対処するわけでなく、英豪を含めた運用が進む可能性がある」と見通す。

(2023年3月28日朝刊掲載)

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