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小説・エッセー・サイン入り・大学新聞… 大江さん関連本 幅広く 収集

西区の若狭さん

生き方に励まされる

 広島市西区の古書コレクター若狭邦男さん(76)は、今月88歳で亡くなった作家大江健三郎さんの著作や関連資料を網羅的に収集してきた。「私に文学との出合いをくれた人。感謝の気持ちでいっぱいです」と、関連本で埋まる自宅の書棚を前に感慨を深めている。(道面雅量)

 大江さん関連本の収集は、大学院進学で上京した20代から始めたという。小説、評論、エッセーなどの単行本はもちろん、「『大江』の字が載った雑誌を目にすれば必ず買ってきた。今も続けている」。単行本だけで200冊以上、雑誌は300冊以上。古書市場などで入手したサイン本、色紙、海外の翻訳本、個人でとりためた大江さん出演のテレビ番組の録画録音、新聞記事のスクラップも積み上がる。

 大江さんが東京大在学中に書いた小説第1作とされる「奇妙な仕事」は、「東京大学新聞」(1957年5月22日号)が初出。同大卒の知人が実物を持っていると聞きつけ、押しかけるように訪ねて譲り受けた。

 生体材料の研究者で広島大歯学部などに勤めた若狭さん。古書コレクターとしては、終戦直後に乱立した大衆誌群を指す「カストリ雑誌」とミステリー分野の収集で知られている。本に親しむきっかけは大江さんの小説で、広島大の学生時代に文芸誌「群像」に連載された「万延元年のフットボール」をむさぼるように読んだという。「文学の薫りが高く、ミステリーの要素もある」と評する。

 5年ほど前、蔵書の半分を一気に手放したが、大江さんの関連本は「別格の愛着がある」と手元に置き続けた。「人生の節目節目で、大江さんの生き方や言葉に励まされてきた。自分が生きた証しにも思えるコレクション」。今後の扱いは決めていないが、研究者などから活用の申し出があれば協力するという。

(2023年3月29日朝刊掲載)

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