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社説・コラム

『想』 青葉憲明(あおばかずあき) 聖堂のステンドグラス

 広島市中区にある重要文化財、世界平和記念聖堂の保存事業に関わって約30年余り。これまで多くのことを学んできた。大小さまざまなステンドグラスもその一つ。全部で65枚、総面積は250平方メートルもある。

 代表的なのは、1階の南と北の側廊にある「ロザリオの祈り」だ。オーストリア、ドイツ、ポルトガル、メキシコなどの聖母巡礼地から寄贈された。

 デザインしたのはドイツ西部アーヘン市の大学教授、制作はハインデーリック・ステンドグラス工場だ。ステンドグラスにその名が残る。2016~19年の文化財保存工事に当たり、この工場に照会したところ、60年も前の下絵が残されていた。これには感動した。

 聖堂のステンドグラスは、村野藤吾氏が設計した日本の伝統的な松紋様の高窓にもあり、南と北の壁面に8枚ずつある。窓には、黒い線が太く細く自由奔放に描かれ、線と線の隙間に赤や黄、青色が配色されており抽象的で難解な図柄だ。側廊の具象的なものとは様子が違う。

 「伝統的なバジリカ形式の聖堂にあって、この高窓のステンドグラスの光は、質素にこだわってデザインされた地味な空間で美しく輝き、そこに昇って行きたい、その光に包まれたいという祈りを感じさせる」と故ローレンス・M・マクガレル神父(エリザベト音楽大元学長)が話されていた。

 約20年前、駐日オーストリア大使館の公使が来堂された。公使から、高窓はヨーゼフ・ミクル氏の作品で、コンペティションで選ばれたことや、ミクル氏がウィーンで著名なデザイナーだったこと、名誉ある勲章を受けた人物だったことを知った。

 ミクル氏は「愛と永遠の平和」をモチーフにデザインした。南側の高窓には「愛」を表す赤と黄を、北側には、イマヌエル・カントの哲学的な思索にある「永遠の平和」から想起した青色を配したとか。いつも見慣れているステンドグラスにこのような物語があった。改めて聖堂内に降り注ぐ光の中で、静かに平和を祈りたい。(世界平和記念聖堂保存活用委員)

(2023年3月30日朝刊セレクト掲載)

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