×

連載・特集

艦載機 移転5年 <下> 交付金の恩恵

巨額財源 市民に還元

負担と「交換」 疑問視も

 岩国市が米軍岩国基地と共存する姿勢を象徴する施設がJR岩国駅東口に立つ。英語交流センター「PLAT(プラット) ABC」。市民が英語を学び、米国人たちが日本文化を体験できる催しを開いている。オープン1周年を記念したイベントが19日にあり、日米の約1500人でにぎわった。

 センターは市が2022年3月に開き、23年2月末までに約2万6600人が利用した。よく訪れる市内の主婦大田知美さん(32)は「英語を学ぶ意欲がある人に出会え、刺激を受ける。学生の頃にこんな施設があれば良かった」と話す。整備費の9割は米軍再編交付金で賄った。

 再編交付金は、米空母艦載機が岩国基地に移ってくる負担の見返りとして、国が岩国市と周辺の大竹市、山口県和木、周防大島両町に07年度から支給する制度を設けた。岩国市は08年度から21年度までに総額201億5千万円を受け取り、防災や福祉など14分野で活用してきた。子どもの医療費を無料にする事業などの財源に充て、市民にアピールする。

歳入の10%前後

 21年度で交付金制度が終了するのを控え、岩国市は「艦載機移転の影響は今後も続く」として後継制度を国に求めた。岸信夫防衛相(当時)たちに要望を重ね、22年度から同規模の新たな交付金を受けるようになった。

 再編交付金を含め、岩国市が08年度から15年間に一般会計予算で国から受けた基地関連の交付金・補助金は約960億円に上る。700億円規模の一般会計で歳入の10%前後を占め、依存を強めてきた。

 市は23年度予算で、さらに増額を国に求めた。国が在日米軍基地がある自治体に支給する特定防衛施設周辺整備調整交付金を前年度より3億円多い12億円と見込む。岩国基地で近年、空軍機など外来機の飛来や大型艦船の寄港が相次いだのを受け、市は「市民の不安や懸念の声が広がっている」として国に要望した。同交付金を充て、新たに1歳児の無料健診などを始める。

騒音5年で1.8倍

 ただ、基地があることで受けられる住民サービスを複雑な思いで受け止める市民もいる。米軍機の飛行コースにある同市由宇町で小学5年と2年の子どもを育てる藤岡琴子さん(39)は「医療費や給食費が無料になるのはありがたいが、戦闘機のごう音を聞くと不安な気持ちになる。これ以上うるさくなると、子どもがかわいそう」と話す。

 艦載機約60機が岩国基地に移り、所属機は2倍の約120機になった。国が岩国市内の6カ所で測定した70デシベル以上の騒音回数は5年間で1・8倍に増えた。外来機の相次ぐ飛来に市民の不安が広がったとする市は一方で「一時的な運用」とし、交付金の拡充を求める。

 基地の機能強化に反対する市民団体「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク」の久米慶典顧問は「市民の負担とお金は交換できるものではない。今後新たな負担を強いられても国に反対を言えなくなる」と市の姿勢を疑問視する。(川村奈菜、有岡英俊)

(2023年3月30日朝刊掲載)

年別アーカイブ