×

社説・コラム

社説 広島サミット ウクライナ 被爆国の役割 忘れるな

 被爆地広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)は5月19日の開幕まで50日を切った。

 主要な議題の一つが、ロシアによるウクライナ侵攻だ。力で他国の主権や領土を踏みにじる企ては明らかな国際法違反で、断じて許されない。国際社会が放置すれば、軍事力による弱肉強食の世界を招きかねない。

 ロシアは、国連安全保障理事会の常任理事国であり、特例的な拒否権が認められている。そんな国の蛮行が国際社会を揺るがし、安保理を機能不全に陥れているのだ。G7の果たすべき責務は重い。サミットでロシアの横暴を改めて断罪し、対応策を探る必要がある。

 戦争犯罪の容疑で国際刑事裁判所(ICC)が先日、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を出した。ウクライナからの子どもの連れ去りに関与した疑いがあるそうだ。ICCによると、少なくとも数百人の子どもが児童養護施設などから連れ去られ、大半がロシアで養子に出されたとみられるという。

 ロシア軍による民間人虐殺は既に明らかになっている。ウクライナの首都キーウ近郊のブチャが、その一例だ。こうした戦争犯罪にも、G7として毅然(きぜん)とした対応をするべきである。

 これほど残虐な攻撃を受けているにもかかわらず、ウクライナの人々は屈することなく、抵抗を続けている。国際社会として、見放すわけにはいくまい。支援を続けねばならない。

 サミットでは、参加国がその能力に応じた支援策について議論することになろう。

 ただ、日本は、立ち位置が他の6カ国とは異なることを確認しておきたい。ソ連・ロシアに対抗する軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の加盟国ではないからだ。軍事面のサポートもできる他国と支援策が違うのは、当然と言えよう。

 平和憲法に基づく制約もある。防衛装備移転三原則の運用指針で、戦車など殺傷能力のある武器は供与できない。

 日本としては、中長期的な視点で対応を考えたい。戦火がやんだ後の復興支援をはじめ、培ってきたノウハウを生かす方法はあるはずだ。ロシアが埋めた地雷や、がれきの除去などの支援については、既に視野に入れているという。必要な準備を進めておかなければならない。

 忘れてはならないのは、被爆国としての役割を果たすことだ。G7サミットの被爆地開催を決めた際、岸田文雄首相は「広島ほど平和への関与を示すのにふさわしい場所はない。核兵器の惨禍を人類が二度と起こさないとの誓いを世界に示す」と述べていた。

 ロシアはこれまで、核兵器の使用をちらつかせた脅しを繰り返してきた。あろうことか、先月は隣国ベラルーシへの核兵器配備計画まで打ち出した。

 「核なき世界」への道のりははるか遠くかもしれない。だからこそ、広島サミットを反転のきっかけにしたい。

 ひとたび核戦争になれば勝者などいないことは、プーチン氏をはじめ核保有国の指導者たちも理解しているはずだ。核兵器廃絶に向けた取り組みが、人類全体の平和と安定につながる。そう、広島サミットで発信しなければならない。核兵器が存在する限り、人類が自滅するリスクは消えないのだから。

(2023年4月2日朝刊掲載)

年別アーカイブ