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社説・コラム

天風録 『ヒロシマの軸線』

 〈生きものが 立っているとき/その頭は きっと/宇宙のはてを ゆびさしています〉。周南市出身のまど・みちおさんに「頭と足」という詩がある。〈足だけは/みんな 地球の おなじ中心を/ゆびさしています〉▲針山にめいめい突き刺さっている待ち針みたいに見えても、足元はそろって母なる地球の芯に向かっている。みんなの体を貫いている引力の軸線が、まどさんの目には映っていたのだろう。普段は誰も忘れかけている▲大事な軸線は街にもある。旧広島市民球場跡地から生まれ変わり、きのう開業した公園「ひろしまゲートパーク」が教えてくれる。平和記念公園の原爆慰霊碑や原爆ドームを結ぶ「平和の軸線」。その線上に園内遊歩道が南北に延びている▲園内の地面には、かつて本塁と投手板のあった位置を示す碑も。原爆ドームと向き合うこの地は、戦後の苦楽を市民が広島東洋カープと共にしてきた聖地でもある。その記憶を継ぐ「歴史の軸線」も忘れてはなるまい▲新井カープはきのう神宮球場で開幕戦を迎えた。コロナ禍を含め、この3年で固まった思いもあるだろう。平和なくしてスポーツは成り立たない―。ぶれてはならぬ軸である。

(2023年4月1日朝刊掲載)

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