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社説・コラム

社説 後半国会 重要課題 疑問残さぬ論戦を

 2023年度予算の成立で、通常国会は後半戦に入った。

 今後、本格的に審議される法案には、国民の多くが不安や疑問を持っているものも目立つ。とりわけ、60年を超す原発運転に道を開く法案や、防衛費の大幅増に絡む財源確保法案、外国人の収容・送還ルールを見直す入管難民法改正案などである。

 いずれもエネルギーや安全保障、人権といった重要案件だ。それぞれ問題点が幾つか指摘されている。国会には、事実に即した冷静な論戦を期待したい。

 「寿命」の延長などで原発の積極活用を促進するのが「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」だ。実質審議がきのう始まった。

 関連の五つの法改正案をまとめた「束ね法案」という手法に違和感を覚える。与野党とも賛成している案件なら審議時間の短縮になり、他の法案の審議に時間を回せるのかもしれない。

 しかし、この法案は与野党が対立しており、論点も少なくない。十分な審議時間を確保できず、論議を深められない恐れが拭えない。かつての安倍政権のように、議席数の力で押し切ることは避けねばならない。

 法案の中身にも問題がある。そもそも、国内の原子力災害では最悪となった東京電力福島第1原発事故の反省をないがしろにはしていないか。事故から12年たった今も、多くの国民は原発の依存度を下げる「脱原発」を望んでいる。60年超運転を支持する人は3割にも満たなかった。本紙に先月載った全国世論調査の数字である。無視すべきではなかろう。

 原発の積極活用について政府は、ロシアによるウクライナ危機に端を発したエネルギー危機への対応を理由として挙げている。ただ、再稼働を急いでも、当面のエネルギー高騰への抜本的な改善策にはなるまい。

 防衛費倍増の方針に関しても国民はまだ、ふに落ちたわけではない。

 政府は昨年末に閣議決定した安全保障関連3文書に基づき、本年度から5年間の防衛費を総額43兆円程度に増額する考えだ。その一環で「防衛力強化資金」新設のための特別措置法案をきょう衆院本会議で審議入りさせる。不足する約17兆円のうち、5兆円程度は税外収入で賄おうと、その確保策と使い道を定めるのが法案の狙いという。

 政府は総額ありきで話を進めているが、予算案審議では関連の数字を出し渋ったり、明確な根拠を示さずに批判をかわしたりする答弁が目に余った。なぜ防衛費の増額が必要なのか、何にいくら使うのか、国民の理解は得られていない。政府は、そのことを肝に銘ずべきである。

 入管難民法改正案も、なぜ再提出したのか、理解に苦しむ。2年前、入管の人権軽視体質などに批判が集中して廃案に追い込まれた。にもかかわらず、抜本的な見直しはしていない。政権の人権感覚が問われている。

 前半戦の国会を振り返ると、論戦がかみ合っていたとは言い難い。政府の説明不足は安倍、菅政権以来の国会軽視のようにも見える。

 これまで以上に丁寧な姿勢で後半国会に臨まなくてはならない。国民の疑問が払拭できるまで、徹底した情報公開と十分な説明が政府に求められる。拙速な論戦は許されない。

(2023年4月6日朝刊掲載)

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