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社説・コラム

社説 広島市長に松井氏4選 「行動する広島」を期待する

 広島市長選は、松井一実氏が4選を果たした。現職の強みを生かして、推薦を受けた自民、公明両党の広島県組織や連合広島を中心に浸透を図り、2新人を寄せ付けなかった。

 構図が固まったのは告示直前で、選挙戦は盛り上がりを欠いた。中国地方の中心都市としての将来像や平和行政の在り方、多選の是非など争点は多岐にわたるのに投票率は低迷した。

 今回を含め3回連続で松井氏に与野党が相乗りする形となった。回を重ねるごとに投票率は低下しており、選択肢が限られたことが影響したようだ。

 とはいえ、3期目に掲げたビジョンに沿って手堅く進めた中心部のまちづくりなどの実績が評価されたのは間違いない。

 紙屋町・八丁堀地区では旧市民球場跡地に「ひろしまゲートパーク」が開業、新たな人の流れが生まれつつある。中央公園広場には来年2月の完成に向けてサッカースタジアムが徐々に姿を現してきた。JR広島駅南口では、路面電車の高架乗り入れに伴う再整備が進む。

 松井氏は4期目の政策展開で、ハードからソフトへ重点を移す考えを示している。路線バスの共同運営システム構築や、人口減が進む周辺部の地域コミュニティーへの支援拡充がそうだろう。注視したい。

 4選は歴代市長で故浜井信三氏、故荒木武氏と並び最多である。「松井市政の総仕上げ」の4年との見方もある。それらも踏まえ、二つ注文したい。

 まずは、市政への幅広い意見の反映である。選挙はその後に続く権力のひな型といえよう。自身を応援してくれた市議会の「市長与党」勢力を向いた運営になりはしないか懸念がある。市民との対話と丁寧な合意形成に努めるよう求めたい。多選の弊害を防ぐことにもなる。

 懸念を抱いた一例が、中央公園にある市立中央図書館を広島駅前の商業施設エールエールA館へ移転する事業だ。賛否が割れているのに説明や議論が不十分で、強引さは否めなかった。

 一方で広島駅周辺は発展が期待されるエリアである。資料収集や読書環境への疑念を払拭し、知の拠点機能を十分果たせるよう、移転整備は市民や利用者の声を集めて進めるべきだ。

 もう一つは被爆地のリーダーとしての発信力の強化だ。常々物足りなさが指摘されてきた。

 松井氏は2011年の就任以来、「迎える平和」を掲げてきた。その頂点が5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)であろう。拡大会合の招待国を含め15カ国の為政者が集う見通しだ。核兵器保有国は米英仏にインドを加えた4カ国。被爆の実態を伝えるため、受け入れに万全を期す必要がある。

 この12年間、核軍縮は後退した。ロシアのウクライナ侵攻や中国、北朝鮮の核開発で核使用の危険は高まる。だからこそ、核は人類滅亡に直結する絶対悪だとの教訓を刻んだ被爆地からの発信が重要になる。

 2年前に発効した核兵器禁止条約は被爆者の悲願だった。その被爆者が廃絶を見届けられず亡くなっていく。じくじたる思いのはずだ。条約に背を向けて恥じない日本政府に署名・批准を堂々と迫り、自らの言葉で世界へ核廃絶を訴えてもらいたい。あと2年で被爆80年。「行動する広島」が問われている。

(2023年4月10日朝刊掲載)

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